伊藤将-梅野のリベンジ
“村上封じ”は今やセ・リーグ5球団が抱える共通の難題だ。
驚異的な勝負強さと飛距離で三冠王へひた走る22歳の怪物。その打棒にタイガースも辛酸をなめてきた。
痛打される投手だけでなく、唇をかんでいるのはバッテリーを組む捕手も同じ。甲子園球場で行われた7日のスワーロズ戦。タイガースの梅野隆太郎は、第1打席ですべてが決まると踏んでいた。
マウンドには伊藤将司。8月17日、敵地・神宮球場で対戦した際には3回にツーシームを仕留められ、右翼へ決勝3ランを被弾していた。
それから3週間後に巡ってきたリベンジの機会。バッテリーの狙いは、球数をかけてながら緩急で打ち取ることだった。
「やり返す気持ちで」
「一辺倒では厳しいと思うので、カーブをうまく使いながら緩急を使いながらやれたのは良かった」(伊藤将)
「前回ホームランを打たれたツーシームを含めて相手がどういう風にマークしてくるか様子を見ながら。球数を使っても相手の反応を見ながらできたというのは1打席目がすべてかなと」(梅野)
2回、先頭でその時はやってきた。初球から3球連続で変化球を投じ、内・外角も駆使。最後はフルカウントから6球目のカットボールでタイミングをずらして遊飛に打ち取った。
直球は1球のみで、カーブを3球混ぜた。緩急を生かす上でキーとなる110キロ台のボール。続く第2打席では勝負球となった。
5回、再び先頭打者で迎えると、梅野も「いくところでは頑張ってストレートを投げてくれた」と振り返ったように、第1打席とは一転、直球を中心に追い込んだ。
2ボール・1ストライクから投じた内角高めの141キロ直球は見逃せばボールだったが、村上は手を出してファール。直後、テレビ画面には苦い表情が映り、“ボールだったな”とつぶやいたように見えた。
そして5球目、内角高めから曲がり落ちるカーブで見逃し三振。同じ高さでも、今度は急降下してストライクゾーンに収まった1球に手が出なかった。
直前に直球で取ったボール球でのファウルが効いた奪三振。その後も7回無死一塁の第3打席は内角へのチェンジアップで二ゴロ併殺に仕留めた。
この夜、3打数無安打に封じ村上の連続試合出塁も30で止める快投。111球、リーグトップの6完投目で手にした9勝目は、バッテリーが心技をかけて挑んだ“村上封じ”が導いたものだ。
殊勲の左腕が「前回悔しい思いをしたので、きょうは梅さんとやり返す気持ちで投げました」と打ち明ければ、女房役は「“きょうやったりますよ。打たれたら知りません”っていうぐらい割り切りを持って将司が言ってきたので。最後、満足した顔を見れたのが良かったです」と後輩を頼もしげに見つめた。
時に“痛み”も味わうからこそ、会心の1勝を分かち合うことができる。バッテリーの信頼は、こうやって強固になっていく。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)