白球つれづれ2022~第37回・幕引きの時期が迫る“老雄”たち
また、「PL戦士」がいなくなる。
中日の福留孝介選手が、今月8日に今季限りの現役引退を発表した。
45歳。現役最年長の名選手は日米で活躍、24年間の現役生活で2度の首位打者に輝くなど、生涯成績は2450安打、打率.280、本塁打327本、打点1273(9月12日現在、以下同じ)と輝かしい。
会見後は一軍に帯同して各球場で挨拶、中でも3年前まで在籍した阪神との試合が行われた11日の甲子園では虎党からもねぎらいの温かい声援が送られた。今月23日からの巨人3連戦(バンテリンドーム)の中で引退セレモニーが予定されている。
かつては、清原和博、桑田真澄の「KKコンビ」などで高校野球界に君臨した母校・PL学園はその後、野球部の廃部などで栄光の歴史に幕を閉じた。同時に立浪和義・現中日監督や松井稼頭央・現西武ヘッドコーチなどプロの世界で輝いた選手も次々に現役を退いていった。ついに福留の引退でNPBでの現役の「PL戦士」はオリックスの中川圭太選手ただ一人となった。
ちなみに中川は、福留が現役引退を発表した同日の西武戦で2本の本塁打を放って“混パ”を演出している。日頃は地味な脇役がこの日は、ど派手なヒーローに。まさにPL魂を伝承した格好だ。
福留の大物ぶりを決定づけたのは1994年のドラフトである。高校球界ナンバーワンの強打者として呼び声高かった福留には中日、巨人、横浜(現DeNA)オリックス、日本ハム、ヤクルト、近鉄(後にオリックスに併合)の7球団が競合、この中で近鉄が当たりくじを引き当てるが、福留は入団を拒否して社会人・日本生命入りを決断する。
意中の球団は中日か、巨人だったと言われる。それから3年後、当時は採用されていた逆指名制度を活用して中日入りを果たした。決め手は「小さいころからあこがれていた立浪さんの下で野球がやりたかった」と言うから、プロ入りの最初と最後は立浪に導かれたと言っても過言ではない。
引退会見で、明るい表情が一瞬曇ったのは、立浪監督と共に戦った最後の1年を振り返った時だった。
「最後に力になれなかったさがある」。今季の出場は23試合でわずかに1安打。チームは貧打で最下位にあえいでいる。
今後の去就は未定ながら、卓越した打撃理論と、若手にも慕われる人望の持ち主。この悔しさは将来の指導者として生きてくるはずだ。
この秋に去就の注目されるベテランたち
その福留より1カ月ほど早い8月に現役引退を発表したのが西武の内海哲也投手だ。巨人時代には2度の最多勝タイトルを獲得するなどした左腕エースも西武では、故障が相次ぎ4年間で2勝止まり、40歳を区切りのシーズンと決断した。
内海と言えば18年オフのFA人的補償が忘れられない。
当時、捕手の強化に動いた巨人は西武の炭谷銀仁朗選手に白羽の矢を立て、交換要員として内海を放出したもの。この年には人気者の長野久義選手も広島・丸佳浩選手のFA人的補償で移籍。さすがの巨人ファンもチームの功労者を簡単に放出する補強策に反発して物議を醸している。
巨人時代には、練習の虫と呼ばれるほどトレーニングに励むかたわら、無名の若手投手まで集めて面倒を見る親分肌で「内海組」を結成。西武移籍後も人一倍の努力に、チームの評価は高く今季からコーチ兼任の肩書が加わった。近い将来、西武の指導者として残るのか? それとも古巣の巨人が呼び戻すのか? ファンならずとも気になるところだ。
福留、内海だけでなく、この秋に去就の注目される男たちはまだいる。
阪神の糸井嘉男選手は、先頃、各マスコミが今季限り引退の可能性を報じた。近日中には球団と話し合いを持つとされるが、若返りの進むチームにあって、41歳の鉄人の居場所はあるのだろうか?
ソフトバンクの「熱男」松田宣浩選手も、優勝争いの最中である今月8日に一軍登録を外された。こちらは藤本博史監督が「難しい決断だったが、一度、再調整をして今月下旬からの出番もあり得る」と語っているから、即引退につながるかは微妙だが、ベンチを温めていてもチームをまとめるリーダーの不在は何とも気になる。
他にも43歳の現役最年長、能見篤史投手兼コーチ(オリックス)や、年々出番の減っている内川聖一選手(ヤクルト)らも確実に幕引きの時期は迫っている。
今年のペナントレースは例年以上に熱い。パ・リーグは史上稀に見る“混パ”なら、セ・リーグもクライマックス圏内に各チームがひしめき合っている。
最後まで目の離せない展開は歓迎だが、一方でベテラン選手を中心とした去就発表と引退試合などの日程調整は今後さらに難しくなる。
現役として、絶頂期もどん底も味わってきた老雄たちの最期はきれいに終わらせてあげたい。
幸か不幸か、最下位に沈む中日の福留や、早めに引退を表明した内海の場合は問題がなくても、これからチーム構想の俎上に乗るベテラン選手の扱いは難しい。フロントの知恵の出しどころである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)