白球つれづれ2022~第38回・拙守改善が進まない阪神の根深い問題
甲子園球場をため息ばかりが包んだ。
18日に行われた阪神vsヤクルト戦。ファンのお目当てはヤクルト・村上宗隆選手の56号本塁打と我がタイガースの勝利。「村神様」の歴史的な一発も見たいが、クライマックス圏内に滑り込むためには、負けるわけにはいかない。
だが、現実は村上がノーヒットで、阪神はダブルエラーが響いて、0-1の敗戦。優勝マジックを7としたヤクルト側から見ると「打点なしの1-0勝利」は対阪神戦63年ぶりの珍事だと言う。
虎党にとっては、何とも釈然としない問題の場面は6回に起こった。
ヤクルト・塩見泰隆選手の遊ゴロを中野拓夢選手が一塁に暴投して無死二塁。続く山崎晃大朗選手が一塁線に送りバントを決めると、今度は藤浪晋太郎投手が“お手玉”の末に一塁へ悪送球。(記録は内野安打と失策)この間に塩見が生還してこの試合唯一の得点が記された。
中野はこの日、2個目の失策でチームの1試合3失策は今季甲子園のワースト。ふくれあがったチーム失策82はリーグ最多。これでは勝負の9月に5勝8敗1分けと波に乗れないのもうなずける。
開幕前に矢野燿大監督が異例の今シーズン限りの勇退を発表して臨んだ勝負の年はいきなり9連敗と大きくつまずいた。
それでも徐々に態勢を立て直し、7月には一時単独2位まで浮上している。
今月19日現在のチーム成績を見ても得点が465(リーグ4位)に対して失点405はリーグ1位。投手10傑を見ても青柳晃洋、西勇輝両投手が1、2位を占めている。つまりは「打低」を強力投手陣がカバーしてここまで来たわけだ。そんな守り勝つチームが、リーグワーストの失策数。このまま行けば5年連続の汚名が近づいている。もはや、「不治の病」と言われても仕方ない。
土のグラウンドだけに問題があるわけではない
本拠地の甲子園球場と言えば、内野が土のグラウンドだ。人工芝に比べて、試合中に荒れることもある。イレギュラーの回数も多くなる。だが、それだけが「守乱」の原因だろうか?
かつては、吉田義男、鳥谷敬といった名遊撃手も生まれている。近年でこそ、守備力の弱さを指摘されるが、2012、13年にはリーグ2位のチーム守備率を誇った時期もある。決して甲子園の土だけに問題があるわけではない。
お粗末な守備で敗れた18日、NHKテレビの「サンデースポーツ」では、球団OBである藤川球児氏が、期せずして甲子園球場を管理、整備する阪神園芸を取材していた。
同社と言えば、水浸しのグラウンドを短時間で見違えるばかりの“戦場”に仕立て上げたり、高校野球では1日4試合の過密日程の中で完璧に整備するなどその仕事ぶりは有名だ。
藤川氏は取材の中で、近年メジャー流の堅いグラウンドが各球場の主流になると甲子園も、選手の要望を入れてこれまで以上に、堅めの整備を心掛けていることや、深夜、早朝にまで及ぶ作業の努力を紹介している。すべては選手たちが気持ちよくプレーしてもらうために。これを見れば、選手たちもグラウンドのせいには出来ない。
昨年のキャンプでは、巨人時代に守備の名手として鳴らした川相昌弘氏を臨時コーチとして招くなど、チームとして守備力向上への取り組みは続けている。だが、その昨年も86失策に終わると次の施策はない。
キャンプだけに「特守タイム」を設けても、その程度は他球団でもやっている。
19日付のスポーツニッポン紙では内田雅也氏のコラムで名ショート、吉田義男氏の現役時代のエピソードが紹介されている。
入団直後はエラーも多かった吉田はデコボコのトタン板を用意して、不規則バウンドにも対応するゴロ捕球の練習を繰り返したと言う。時代が違う今では、すべてを肯定するわけにはいかない。それでも一心不乱な精神と努力を継承できれば、失策数は確実に減らすことが出来る。
クライマックスシリーズ進出は最後まで予断を許さない。矢野監督の采配は残り少ないが、「守乱」の克服なくして、頂点獲りは難しい。
大きな課題は来年以降に残された。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)