白球つれづれ2022~第39回・「チームスワローズ」の結束力が導いたリーグ連覇
実に見応えのある3時間23分の激闘ドラマだった。
9回裏一死二塁。ルーキー・丸山和郁選手の放った打球が左中間を破って決着がついた。
1-0のサヨナラリーグ優勝はセリーグ初。本拠地・神宮で対戦相手はマジック対象チームであるDeNA。これ以上ない舞台、これ以上ない幕切れで高津臣吾監督が2年連続、宙に舞った。
“村神様”こと、村上宗隆選手の圧倒的な打撃力でつかんだV2であることは間違いない。55本塁打に132打点の二冠はすでに当確。打率こそ直近の不振で.322と急降下して2位の大島洋平選手(中日)に5厘差まで迫られているが、まだまだ三冠王の夢は十分残っている。(数字は26日現在、以下同じ)。
村上による、村上のためのシーズンと言う見方もあるだろうが、このチームの強さはそれ以外にもある。まさに、9.25の死闘が雄弁に物語っている。
ヤクルト・小川泰弘、DeNA・今永昇太両エースの先発で始まった試合は互いに隙を見せない投手戦で展開する。中継ぎ投手も踏ん張った。そんな緊迫した戦いで勝敗を分けたのは「勝負のあや」と「凡事徹底」である。
9回裏。ヤクルトの先頭、ホセ・オスナ選手は三遊間に飛んだ打球に全力疾走で内野安打にする。(代走に塩見泰隆選手を起用)続く、中村悠平選手は初球をたやすくバントして一死二塁。
この場面、本来なら続く打席にはドミンゴ・サンタナ選手がいるはずが、8回の守備で股関節を痛めて丸山に途中交代。相手は速球派左腕のエドウィン・エスコバーを考えれば、若手左打者の丸山には荷が重いと思われた。
この時点でベンチには代打の切り札である川端慎吾や右打者ならパトリック・ギブレハン選手らもいる。だが、指揮官は動かなかった。もちろん、延長戦に突入した時の外野守備も考えて動けなかった部分もあっただろう。
サンタナの予期せぬ途中交代と言う「勝負のあや」と、全力疾走に、手堅く走者を進める「凡事徹底」が、丸山の“奇跡のサヨナラ安打”を生んだ。
明確な強化方針と強い結束力
ルーキーの丸山に限らず、連覇のもう一つのポイントは「育成力」にある。
高津監督が「今年のヒット作品」と自画自賛したのが、遊撃の定位置をつかんだ長岡秀樹選手の存在だ。
「(一軍)キャンプに連れていくのもどうしようかなと思っていたくらいだけど、一年かけてずっと我慢した甲斐があった」(26日付スポーツニッポンの手記より)
正捕手の中村が故障で出遅れると内山壮真捕手を辛抱して起用し続ける。高卒3年目の長岡に、2年目の内山の急成長はチームの明確な強化方針と高津監督の忍耐と胆力なくしてはあり得ない。
そして、村上以外の最強の強みは選手たちが口々に発する「チームスワローズ」の結束力である。
優勝決定直後の歓喜の輪の中で泣き崩れる主将の山田哲人選手を村上が抱きかかえる。祝勝会では40歳の“長老格”青木宣親選手に若手たちが臆することなくビールを浴びせかける。チームによっては、憚れるような行動も出来るのがこのチームの特徴だ。
優勝フラッグを掲げて場内一周の場面でも「チームスワローズ」は見て取れる。高津監督の横に山田、村上が控え、その後ろに石川雅規、青木の大ベテランや小川、中村らの主力が続くのは当然として、オスナ、サンタナや守護神のスコット・マクガフら外国人選手が加わっているのが珍しい。
「助っ人」ではない。「チームスワローズ」の一員として、みんなが認知しているから彼らも胸を張れる。
ペナントレースに敗れたセ・リーグの5監督は、一様に村上の存在の大きさは認めながら、チームとしてのバランスの良さと攻守のスキのなさを敗因に挙げている。
野村克也元監督の遺産を生かしながら、92、93年以来のリーグ連覇。勝つべくして勝った。決して“村神様”だけのチームではない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)