CS初戦に合わせて昇格
周囲の期待する“抽象的”なものとは裏腹に、本人が求めるものはいたってシンプルだった。
「いや、もうそういうの(盛り上げ役とか)はいいんです。結果……結果でしょ」
タイガースの北條史也は「チームのムードメーカーとしても期待されると思うが」との問いに、強く首を振った。
ベイスターズと相まみえるクライマックスシリーズのファーストステージが8日に開幕。決戦に合わせて、アデルリン・ロドリゲスや江越大賀とともにファームから昇格を果たした。
ベンチでの声出しや雰囲気作りは、仲間だけでなく指揮を執る矢野燿大監督も認めるほど。短期決戦では、よりその存在がチームのプラスになることは間違いない。
ただ、当の本人はプレーヤーとして当然の気持ちを言葉に乗せた。
悔しさの残るプロ10年目
「シーズンが全然ダメだったんで。CSで何か起こしてやりたいとは思っています」
今季は節目のプロ10年目だった。昨年手術した左肩のリハビリ過程にあったため、開幕から出遅れた。
5月上旬に初昇格を果たしたものの、スタメン出場はわずか8試合にとどまり、8月には新型コロナウイルス感染で離脱。
復帰直後の二軍戦で左ふくらはぎを負傷した影響もあって、再昇格を果たせぬままレギュラーシーズンは終了した。
不本意以外のなにものでもないことは、唇を噛むその表情からもうかがい知れた。
ただ、まだグラウンドで暴れる機会は用意されている。
滑り込みでの一軍合流で、CSに臨むチームの戦力に加わった。
学んだ「気持ちの切り替え」
北條には3年前の“熱い”記憶がある。
2019年のCSファーストステージ初戦。DeNA戦に「2番・遊撃」で先発出場すると、5点劣勢の7回に3ランを放ち、1点差に詰め寄った8回には逆転の2点適時三塁打。5打点の活躍で6点差をひっくり返す大逆転勝利に貢献し、同ステージ突破の原動力となった。
今年は奇しくもその時と同じ球場で、同じチームとの対戦に。3年前も指揮を執っていた矢野監督も「存在自体が流れを変えるムードがある男なので。アイツが来るとみんなが元気になる。もちろん、そういうところ(3年前と同じ)も期待してるし。使っても悔いがない選手」と“切り札”としての期待を隠さなかった。
今季限りで退任する矢野監督からは、二軍で指揮を執っていた時から「気持ちの切り替え」を学んできた。
北條は言う。
「引きずって良くない結果になりがちだったけど、切り替えができるようになった。(矢野監督からは)使いたくなる選手になれ、と言われていた。打てなくても、ミスをしても、使った側が後悔そないような選手になれ、と」
指揮官の思いと、北條の心構えはピッタリと重なる。
「試合に出たら結果残すだけかなと思います」
しびれる舞台で真価を発揮する時がきた。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)