白球つれづれ2022~第41回・無限の可能性を秘める中日・髙橋宏斗
栗山英樹監督率いる侍ジャパンが11月5日から強化試合に挑む。
それに先立ち、今月4日には代表メンバーが発表された。ロッテ・佐々木朗希投手やヤクルト・村上宗隆選手ら28選手の平均年齢は25.5歳のフレッシュな顔ぶれ。中でも目を引くのが最年少、20歳で初代表を射止めた中日の髙橋宏斗投手だ。
チームは立浪和義新監督の下、見せ場なく最下位に沈んだ。それでも侍ジャパンの首脳陣は、この若者の無限の可能性に高い評価を与えている。言ってみれば、光り輝くダイヤモンドの原石をそこに見たのだ。
6勝7敗。高卒2年目の逸材としては可もなく、不可でもない成績かも知れない。しかし、投球内容を見ていくと非凡さは随所に見て取れる。
Max158キロの快速球と多彩な変化球を駆使して、防御率2.47はチームのエース格である大野雄大(2.46)や小笠原慎之介(2.76)とほぼ互角。中でも奪三振率10.34は他球団のエースをも上回る。
9月22日のヤクルト戦では優勝と三冠王を目前にした村上に真っ向勝負を挑んで、無安打2奪三振と抑え込んだ。あるスポーツ紙には「令和の名勝負」の見出しが躍ったほど。ちなみに髙橋宏の6勝中4勝(無敗)がヤクルト戦に上げたものだから、強豪になればなるほど燃えるハートの強さも将来の大エースを予感させる。
20年のドラフトで中日から1位指名。この間の経緯がコロナに翻弄される世代らしい。
中京大中京高のエースとして全国区の知名度を誇っていたが、3年春に出場予定だったセンバツ大会も、夏の選手権大会もコロナによる中止に追い込まれる。仮に甲子園で剛腕を発揮していれば、プロの争奪戦は激しさを増していただろう。
さらに地元・中日の“一本釣り”を可能にしたのが、直前までの慶応大進学希望だった。兄の影響もあり、進学を目指したが不運にも結果は不合格、直前になってプロ志望へ方針変更を決断した。他球団からすれば、ドラフト戦略の大枠を決めた後だから、中日にとっては労せずして地元の逸材を獲得できたと言う訳だ。少年時代にドラゴンズ・ジュニアで育った若者は、期せずして地元の期待の星となった。
投球の完成度は佐々木朗希を上回る
新生・侍ジャパンの若きエース候補筆頭格と言えば、1学年上の佐々木朗希であることは間違いない。4月のオリックス戦では完全試合を達成。13連続奪三振の日本新記録に、19奪三振は日本中に衝撃を与えた。だが、髙橋宏の投球の完成度は、その佐々木より上かも知れない。
佐々木朗と、同じく昨年ブレークしたヤクルトの奥川恭伸投手を足して2で割ったような魅力が髙橋宏にはある。160キロを超す快速球が持ち味の佐々木朗は、まだ本物の投球術と言う点では発展途上だ。対する奥川は制球力を武器に安定した投球が光った。
髙橋宏のスピードは佐々木朗より劣るが奥川より上、コントロールを含めた投球術では奥川に匹敵して、佐々木朗を上回る。高卒2年目の成績は佐々木朗が3勝2敗に対して、奥川は9勝4敗と日本一に貢献したが、今年は故障でシーズンを棒に振っている。こうして比較すると髙橋宏の3年目は、両先輩を超す可能性が十分にある。
「今、自分の持っている力を発揮できるように頑張ります。先輩方の素晴らしい技術も勉強したい」とプロ初の日の丸に髙橋宏は目を輝かせる。
今回の侍ジャパンのメンバーには3月のWBCで必ず選出されるだろう山本由伸(オリックス)や千賀滉大(ソフトバンク)両投手や打者では柳田悠岐(ソフトバンク)、吉田正尚(オリックス)選手らの名前がない。さらに本番では大谷翔平(エンゼルス)らのメジャーリーガーの出場も確実視されている。
髙橋宏にとって、今回の選出が即、WBC出場を約束されるものではないが、強化試合で快投を演じれば、夢にまた一歩近づくことが出来る。
失うものは何もない。将来の日の丸エースへ、ダイヤの原石は思い切り腕を振ればいい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)