「タイガースで優勝」を
決め手は、まだ見ぬ“眺望”だった。
24日、タイガースの岩崎優が今年4月に取得していた国内FA権を行使した上での残留を表明した。
「タイガースに必要とされているのかという不安もあったんですけど、そこで必要としてくださったというのがひとつの理由。9年間やって、まだ優勝してないっていうのもあって、やっぱりそれを達成したい。周りから残ってくれたら嬉しいとか、そういう声もあって。理由はたくさんあります」
入団以来、今年まで9年間リーグ優勝を経験していない。
プロになって立つ頂点からの景色はどんなものなのか。新天地で放つ輝きよりも本人が欲したのが、「タイガースでの優勝」だった。
「他の選手も引っ張っていきたい」
世代交代が進み、チームでは“古株”。背中を追いかける後輩たちの方が確実に多くなった。
投手陣、ひいてはブルペンを率いる覚悟も強い。タイガースというよりも「このチーム、このメンバー」で歓喜を味わいたい、という表現が正しいのかもしれない。宣言残留し、タイガース一筋を貫こうとしているのもその現れだろう。
「今年は思ったようにいかない部分も多かったので。考え事もちょっと多かった」
今季はセットアッパーからスタートして3度の配置転換を経験。クローザーとして球団左腕の最多記録を更新する28セーブを挙げた一方で、6敗を喫したように苦闘の1年でもあった。
救援失敗があれば、次の登板機会で名前がコールされると、スタンドからどよめきが起こることもあった。
8回と9回という質の全く違う過酷なポジションを行き来することで疲弊したのは、体だけではなかった。
それでも、「不安もあった」という球団の交渉では4年総額8億円の大型契約を提示され、嶌村聡球団本部長から「どうしてもブルペンに必要な存在」と慰留されるなど、熱意は直に伝わってきた。
「自分がどんどん数字を出して、その上で(若手を)引っ張っていかないといけないと思うので。まずは自分がしっかりと年々、成績を上げていけるようにしていって、他の選手も引っ張っていきたい」
複数年契約を手にして安住する気はさらさらない。湧き出たのはもう一度、ネジを巻き直し、チームのために腕を振る覚悟。
24日の秋季練習初日には、岡田彰布新監督にもグラウンド上で残留を直接報告。就任以来掲げている「守り勝つ野球」を体現する存在として、かかる期待は大きい。
「絶対に“アレ”(=優勝)をして喜ばせたいなと思います」
指揮官の言い回しを拝借して、虎の中継ぎエースは決意を固めた。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)