最終回:来季は結果を残す必要に迫られる日本ハム・新庄監督
高級外車・ランボルギーニで球場に現れ、本拠地開幕戦では、お約束の「宙づり」デビュー。シーズン中にもTVコマーシャルに出続けて、最後は「重大な発表があります」と関心を集めて、“BIG BOSS”のユニホームと決別宣言。
日本ハム・新庄剛志監督の1年が終わろうとしている。
派手な話題に加えて「1年間はトライアウト」と公言して、ファームの選手までを総テスト。時にはセオリー無視の戦法も果敢に挑戦する。
どこまでも“新庄ワールド”を貫いた新人監督のシーズンだが、結果は9年ぶりのリーグ最下位で、観客動員129万1495人もリーグ5位。やはり、チームが弱ければファンもソッポを向くことが実証された形だ。
ある広告代理店の幹部が語ったことがある。
「彼の持つ個性やキャラクターは、これまでの野球人とは異質なもの。“エッジの効く”存在はテレビや広告業界では重宝がられる」。
まさに、新庄監督の誕生は、そんな球団側の思惑があったはずだ。
来年春には新球場・エスコンフィールドが誕生する。日本一にも輝いた栗山英樹前監督も晩年は下位に低迷、チームを大幅に改造して出直すには、新庄流の劇薬も必要だった。一部からは「人寄せパンダ」の声があっても、指揮官・新庄の誕生は必然でもあった。
今オフの最重要問題である近藤健介の去就
どん底からの再出発。「2位も6位も一緒。目指すは優勝だけ」と2年目のシーズンを前に不退転の決意を語った新庄監督は、オフを精力的に動きまくっている。
今月18日には阪神との間で渡邉諒、髙濱祐仁選手を放出して、江越大賀、齋藤友貴哉選手を獲得する2対2のトレードを発表。また、金子千尋、柿木蓮投手ら大量13選手に戦力外通告。首脳陣も金子誠コーチらが退団して、森本稀哲、建山義紀、八木裕氏らが入閣するなど、より一層「新庄色」を強めている。
ドラフトでは投打二刀流の矢澤宏太選手(日本体育大)の1位指名は既定路線ながら、同3位に大リーグ・メッツ傘下3Aの加藤豪将選手、育成3位でテキサス大タイラー校中退の山口アタル選手を指名するなど、ユニークな補強を行っている。
最下位に沈む中で、“新庄チルドレン”も生まれつつある。清宮幸太郎選手は初めて18本塁打を記録して長距離砲として覚醒を予感させる。ルーキーの上川畑大悟選手も攻守に溌剌としたプレーが光り、レギュラー取りに近づいている。
だが、新庄監督が就任時に「7人くらいのスターを作りたい」と語った夢には程遠いのも現実だ。冷静に見ていけば、投打で各2~3選手ほどの主力が育たなければ優勝はおぼつかない。
さらに、今オフの最重要問題として騒がれているのが近藤健介選手の去就である。リーグでも屈指のヒットメーカーで、なくてはならない存在がFA宣言して、他球団への移籍が取り沙汰されている。
FAは、日本シリーズの終了翌日から、土、日、祝日を除く7日間のうちに権利を行使するかを表明後、各球団は争奪戦に突入する仕組みだが、水面下では調査と称した交渉もすでに行われていると言う。
表向きには「すごく悩んでいる」と言う近藤だが、FA権の行使は確実で、進路もソフトバンクやロッテが有力視されるとの情報も流れている。一部には近藤のFA行使の裏には、日替わり打線や、めまぐるしいメンバー交代の目立つ新庄流用兵に対する反発もあると指摘される。
仮に近藤がチームを離れた場合には、現状で確たるクリーンアップ候補はいなくなる。まもなく決断の時はやって来るが、チームの根幹を揺るがす“震源”であることは間違いない。
今オフには、阪神、広島、西武、ロッテの4球団に新監督が誕生した。中でも西武・松井稼頭央、ロッテ・吉井理人両監督はメジャー経験者で、ヤクルト・高津臣吾、楽天・石井一久、そして新庄を含めると12球団の半数近くがメジャー帰りの指揮官となる。これも時代の流れなのだろう。ちなみにこの5人共にメッツに所属したことがあると言うのも、偶然とはいえ興味深い。
監督業としてはヤクルトの高津監督が一歩も二歩もリードしている格好だが、“BIG BOSS”をかなぐり捨てたニュー新庄も負けてはいられない。
話題作りが先行した今季から、次は話題も実績も残す必要に迫られる。
ここからが新庄劇場本番の時である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)