第2回:「SENGA」を巡る争奪戦が米球界で加熱
メジャーリーグ(以下MLB)は、日本時間9日からネバダ州・ラスベガスでGM会議が始まった。今年は日本から千賀滉大投手(ソフトバンク)が、海外FA権を行使してメジャー挑戦を宣言。その進路にも大きな注目が集まっている。
千賀にとっては、待ちに待った時がやってきた。
球団にメジャー挑戦の意思を伝えたのは2017年オフの事。絶対的エースに成長した育成出身の若者を球団も手放すわけはなく、ポスティングでの移籍希望は退けられ、6年越しで海外FA権を取得したこのオフ、夢の実現に走り出した。
すでに米球界でも「SENGA」の名前は広く知られている。
17年に開催されたWBCに出場すると、世界を相手に4試合で防御率0.82、大会最多16奪三振で、日本チームからただ一人、ベストナインに選出されている。今季も11勝ながら、防御率は初の1点台(1.94)をマーク。球速は自己最速の164キロを記録した。衰えはない。
大谷翔平やダルビッシュ有投手らの活躍もあり、日本人投手への評価は高い。
そこに「日本最高の投手」(ジ・アスレティック紙)の参戦だから、MLB公式サイトでも「千賀特集」が組まれるほど、現地でも注目度は高い。
GM会議の開幕に合わせて、千賀の代理人を務めるジョエル・ウルフ氏は今後の見通しと千賀の希望の一部を明かした。
すでに同氏の下には、多くの球団から問い合わせが来ていることを明らかにしたうえで、千賀の価値を「先発ローテーションの3番手以内」と語り、本人の希望を「プレーオフに勝ち進み、ワールドシリーズで投げられる強いチームに行きたがっている」とした。
全米30球団が獲得に興味を持っているとされるが、米各メディアによれば、推定年俸は5年6500万ドル(約97億5000万円)から直近では3年7200万ドル(約108億円)と様々ながら、かなりの高額となるのは間違いない。こうした球団の資金力や、強豪チームの条件が加わると、争奪戦にはヤンキース、レッドソックス、メッツやドジャース、パドレスなどが有力視され、さらに過熱していくと10球団近くが名乗りを挙げていくと見られている。
MLBの今オフFA市場にはメッツのジェイコブ・デグロム、ドジャースのクレイトン・カーショーなど球界を代表するエースが名を連ねている。並みいるスーパースターの中で「今オフに注目するFAランキング」で、千賀は13位に選出されている。
加えて、デグロムやカーショーらの大エースが移籍した場合、当該球団はその穴埋めに追われる。その一番手に予測される千賀なら、マネーゲームはさらに加速しそうだ。
チームの総合力が問われるソフトバンク
一方で、千賀を手放すことになるソフトバンクにとっても絶対エースの流失は手痛い。
今季もリーグ優勝に王手をかけながら、オリックスに逆転優勝を許して2年連続のV逸。千賀の退団を見越して、チームは若返りの途上にあるが、投手陣なら坂東湧梧、大関友久、松本裕樹らのより一層の成長がないと苦しい。国内FAでは阪神の西勇輝、岩崎優らに関心を寄せていたが、いずれも残留が決まっている。この上は、10勝近くを期待出来る新外国人獲得に照準を充てていくことになるだろう。
王者・オリックスに目を転じれば、こちらも主砲・吉田正尚選手のポスティングによるメジャー挑戦が注目されている。すでに米国側では近日中の交渉解禁まで報じられていると言う。投手四冠の山本由伸選手も昨オフから球団にメジャー行きの意思を伝えている。
今や、国内FAはもとより、腕に自信のある選手はメジャーを目指す時代だ。
王国が屋台骨を揺るがすことも珍しくない。千賀の挑戦がどんな形で実を結ぶのか? そして、大黒柱を失うソフトバンクはどうやってチームを建て直していくのか? フロントを含めたチームの総合力が問われている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)