コラム 2022.11.14. 17:32

村田兆治さん死去、不器用なエースの生き様【白球つれづれ】

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村田兆治さん (C) Kyodo News

白球つれづれ2022~第46回・実直で頑固「昭和の明治人」と呼ばれた大投手の野球人生


 またひとり、昭和の野球人がいなくなった。

 元ロッテの大エース、村田兆治氏が今月11日未明に都内自宅の火災で焼死、一酸化炭素中毒とみられる。享年72歳。

 村田さんとは、こちらがスポニチのロッテ担当として、記者生活をスタートした時に巡り合った。

 鹿児島キャンプでは、初めてブルペンの後ろからその投球を見たが、まさにストレートはうなりを上げるほど。「これがプロの球か」と実感したのを覚えている。スピードガンがない時代でも、間違いなく150キロは超え、自慢のフォークボールは垂直に落ちた。言ってみれば、昭和版の佐々木朗希だった。

 23年間の通算成績は215勝177敗33セーブ、防御率3.24。最多勝に最優秀防御率など数々のタイトルを獲得しているが、本人からすれば4度の奪三振王が最も誇らしかったはずだ。

 村田さんにとって野球人としては二つの大きな転機があった。

 ひとつは代名詞となる「マサカリ投法」の習得である。

 1967年に広島・福山電波工高(現近大広島高福山)からドラフト1位で東京オリオンズに入団。当初は、スピードボールは投げるが、制球の定まらない“ノーコン”投手。ゲームを作れなければチームの信頼も得られない。そんな苦境の中で自ら編み出したのが「マサカリ投法」だった。

 上体が打者方向に突っ込むため制球にバラつきが生まれる。そこで、左足を高く上げ、上体をひねることで、右足に体重を残す。さらに振り下ろした右腕を真っ向から振り下ろすことで、重い快速球が生まれた。当時の監督は元400勝投手の金田正一氏。12球団一の走り込みを選手たちに課したことも、村田さんにはプラスになった。

 同じく伝家の宝刀となるフォークボールの習得も村田さんらしい逸話が残っている。寝るときに人差し指と中指の間にボールをはさむと、包帯でぐるぐる巻きにして朝を迎えたと言われる。かつて、がっちり握ったフォークを取ってみろ、と言われて挑戦したことがある。びくとも動かなかった。

 村田さんと同時期に阪急(現オリックス)のエースとして活躍した山田久志氏も独特な下手投げから「サブマリン投法」と呼ばれ、一時代後には野茂英雄氏が「トルネード投法」でメジャーでも旋風を巻き起こした。今のようにネットで投げ方から、球種までを習得する時代ではない。そこには独自で創意工夫を重ねる凄みがあった。



 村田さんにとって、もう一つの大きな転機は「トミージョン手術」からの復活である。

 順調にエース街道を歩んできたが80年代前半に右肘の故障に悩まされ始める。あらゆる治療法を試したが効果はなく、最後にたどり着いた結論は渡米して最新の治療を受ける「トミージョン手術」だった。右肘靱帯の再建手術は今でこそ当たり前だが、当時は患部にメスを入れるのはタブー視されていた。

 83年の1年間を棒に振ったが、翌年にマウンド復帰を果たし、85年には17勝を上げて「カムバック賞」も受賞。これほど劇的な復活劇も珍しい。

 実直で頑固。ついたあだ名は「昭和の明治人」。ユニホームを脱いだ後の活躍は限定的だ。実績からすれば、ロッテの監督に就いてもおかしくなかったが、指導者としては95年からダイエー(現ソフトバンク)王貞治監督の下で投手コーチを3年務めただけ。晩年は環境に恵まれない離島の子供たちに野球を教えることに心血を注いだ。

 明治人のような気骨は、時として不器用な生き様にもつながる。時の運、人の運を自らつかみに行けば、まだまだ球界の中央に位置していたかも知れない。だが、それも含めて村田兆治と言う男の人生だったのだろう。

 直近は不幸の連続だった。今年9月には空港での暴行事件で逮捕起訴され、そして自宅の火災。村田さんは事件を振り返り「決して暴力は振るっていない」と語っていたが、その顛末も、その後の対応も不器用な人らしい。

 近年は夫人との別居が明らかになり、球界の一部では離婚説も流れていた。焼死の上に孤独死ではあまりに寂しい。これが座右の銘である「人生先発完投」の結末とは思いたくない。

 かつて、村田さんと握手した時の温かさと痛いほどの握力の強さが今でも記憶に残っている。今はただ合掌。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)



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※お詫びと訂正
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初出時、文中の野茂英雄氏の名前に誤りがございました。
大変失礼いたしました。訂正してお詫び申し上げます。

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