コラム 2022.11.17. 17:22

猛虎に激震を呼ぶ岡田新監督の再生術【オフの震源地を探る】

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阪神・岡田監督 (C) Kyodo News

第3回:近年なかったチーム内の緊張感を生み出す「岡田改革」


 これが15年ぶりに古巣復帰した情熱の発露なのか。

 阪神・岡田彰布新監督が、就任早々激しく動き回り、新機軸を打ち出している。

 例えば高知・安芸の秋季キャンプでは、初日から自らグラブをはめて内野手たちにお手本を示す。あと一歩素早く、あと一つ正確なスローイングの大切さを説く。

 かと、思えば、キャンプ地である安芸市営球場の外野芝生を甲子園と同じ長さに揃えるよう要望を出すなど、その指示は微に入り細に渡る。もちろん、視線の先にあるのはチーム再建だ。

 2008年以来の阪神監督復帰。前回は05年にリーグ優勝を果たしているが、チームはそれ以来、頂点に立てないでいる。今月25日には65歳。いきなり巨人・原辰徳監督と並ぶ現役最年長の指揮官となるが生え抜きの切り札と言えばこの人しかいない。

 「そら、そうよ」

 「目標は“アレ”(優勝)しかないやろ」

 関西弁を前面に出した「岡田語」は有名だ。言葉の響きは、どこかアバウトだが岡田野球の本質は、基本に忠実な堅実さを前面に打ち出す。緻密にして、オーソドックス。矢野燿大前監督がチームのムードを大事にした“イケイケ流”だとしたら、いきなり打ち出した岡田色は「脱矢野野球」と言っても過言ではない。

 改革第1弾は中野拓夢、佐藤輝明と言った若手レギュラー選手へのメスである。

 中野には、秋季キャンプで遊撃から二塁へコンバートを申し渡している。阪神のここ数年の課題は守備力の強化。今季も86失策で5年連続12球団ワーストだ。中野の守備がすべて悪いわけではないが、軽率なグラブさばきや、スローイングに問題あり、と岡田は判断したのだろう。

 佐藤には三塁手固定(大山悠輔は一塁)で、外野との併用をなくし、同時に打法改造を求めている。

 解説者時代に佐藤の打席での始動が遅すぎると指摘していたが、間近で見ると「左翼方向にこすったような打球ばかり、コンパクトに打つ必要はない。飛距離と言う人にはないすごいものがあるわけやないか。それを生かさなあかん」とルーキー時代のワイルドさを取り戻すよう要望を出した。

 中野や佐藤輝にもお構いなしの厳しさは、近年なかったチーム内の緊張感を生み出す狙いもあるはず。控え組にもチャンスあり、と競争を煽ることも忘れない。選手たちは岡田の繰り出す新戦略に戦々恐々? これも老練な再生術のひとつだろう。

 現役時代には、二塁後方まで伸びる外野の芝を、守りやすくするため球場側と折衝して一部を削り取ったというほど守りへのこだわりは強い。打ってはランディ・バース、掛布雅之とクリーンアップを組んで猛虎の一翼を担った。そんな想いが中野や佐藤輝の更なる強化につながっているはずだ。


優勝のために足りないピースをいかにして埋めるか


 改革と改造は止まらない。

 シーズン終了と同時にトレードを断行。江越大賀、齋藤友貴哉を放出して、日本ハムから渡邉諒、髙濱祐仁を獲得した。外国人選手もカイル・ケラー投手を除く6選手が退団して、新外国人探しに着手している。さらにこのキャンプでは内外野を守れるユーティリティーや脚のスペシャリスト養成にも力を入れている。1点をもぎ取り、1点をやらない岡田野球の方向性が見えてきた。

 面白いところでは、前監督時代にやっていたホームランで生還後の「メダル授与」や、試合後に全選手が整列してファンにあいさつも廃止の方向だと言う。

「負けたら悔しくて、すぐロッカーに戻るやろ」と負けず嫌いの指揮官は勝利限定のセレモニーにするようだ。

 矢野監督時代の4年間は3、2、2、3位で終わっている。ペナントにあと一歩で届かなかった反省に立ち、優勝のために足りないピースを、いかにして埋めるかがベテラン監督の重要な任務になる。

 オリックスの中嶋、ヤクルトの高津両監督に代表されるように、指揮官像は若返り、選手との距離も縮まっている。来季からは岡田以外に、広島・新井貴浩、西武・松井稼頭央、ロッテ・吉井理人の新監督が誕生する。

 そんな新陳代謝の激しい世界で、知名度も実績もある岡田監督がどう、チームを導いていくのか?

 虎党ならずとも興味のあるところだ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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