日本独立リーグ考~最終回:独立リーグの未来
10月1日、日本独立リーグ野球機構(IPBL)加盟球団による日本独立リーググランドチャンピオンシップ決勝が行われた。
コロナ禍による2年間の中断を経て、3年ぶりに再開された独立リーグ「日本一」を決めるこの大会。従来の四国アイランドリーグplusとルートインBCリーグ(BCL)の優勝チームによるホームアンドアウェイ5戦3勝制のシリーズから、日本独立リーグ野球機構所属4リーグのチャンピオンによる2日間のトーナメントにそのフォーマットを大きく変えて行われた。
今年が初参加のヤマエ久野九州アジアリーグ(KAL)が主幹となって開かれた今大会は、2年連続でKALチャンピオンに輝いた火の国サラマンダーズのホームであるリブワーク藤崎台球場で行われた。
NPBのオールスターゲームも開催されたことのある収容2万人を超える大きな器で開催された大会は、一部報道では爆発的なネット中継の視聴者を呼んだともされているが、スタンドには閑古鳥が鳴いていた。
メリットのないポストシーズン
今年も盛り上がった日本シリーズを挙げるまでもなく、プロスポーツにおけるポストシーズンは、シーズン最後を飾るまさに「クライマックス」である。
シーズンのチャンピオンを決めるこの舞台は、多くのファンの注目を集め、スタジアムは多くの観客で埋まる。NPBにおいては、長いレギュラーシーズンで優勝したチームがしばしば「下剋上」により日本シリーズに進めないことがあるという矛盾に対し、その開催の是非が毎年のように議論されるが、今後もおそらくクライマックスシリーズがなくなることはないだろうと見込まれるのは、その興行的成功のゆえである。
ところが、現在の日本の独立リーグにとって、ポストシーズンは興行的になんのメリットもないと言って過言ではない。むしろ経営的視点に立てば、進出したチームにとっては「罰ゲーム」になりかねないのが現実である。
スポンサー収入に頼る現在の独立リーグのビジネスモデルの中では、プレーオフと言っても集客が伸びるわけではない。それに、あらかじめ進出が決まっているわけではないので、球場の確保も容易ではなく、平日のデーゲームで実施することもしばしばだ。
結局のところ、チケット収入は見込めず、試合開催や遠征にかかる経費だけが球団の収支を圧迫することになる。リーグによっては、ポストシーズンはリーグ主催となり、リーグ当局が作成したチケットを買い上げるはめにもなり、結局のところ、経営的にはポストシーズンに進出することは決してプラスにならない。
そういう現実も加味してのことだろう。IPBLは今大会をトーナメント方式でのセントラル開催とし、苦肉の策として、出場リーグ、チームから「参加料」を取ることにした。あるリーグからの情報では、その額は250万円だったという。
選手・指導者・関係者含め、各リーグ30人ほどの選手団のホテル代3泊分、航空運賃、そして移動のバス料金などを考えると妥当な金額だろう。主催リーグとなったKALは移動費がほとんどかからないため、このリーグからの参加費は、球場確保など、大会の運営費に回されたものと思われる。
各チームは成績に応じて賞金を手にしたが、その額は優勝チームへの50万円にはじまり、最下位の4位には5万円が与えられた。つまりはこの大会では、たとえ優勝しても、収支は赤字にしかならないのだ。大会全体の収支も赤字だったという。
選手には、この大会に出場することに対する報酬は出ない。これでは、「プロ」であるはずの独立リーグの「日本一」決定戦の運営の実態は、アマチュアのそれの域を出ていないと言われても仕方がないのではあるまいか。
BCLが日本第2の独立リーグとして発足した時、アドバイザーとなった野球漫画の第一人者の故・水島新司氏は、全国に独立リーグが広がった上での、「日本一決定戦」という未来予想図を描いた。しかし、それが現実となった時、見えてきたのは厳しい現実だった。
大会は、初参加のKALチャンピオン・火の国サラマンダーズが前評判通りにその強さを発揮して優勝。都市対抗出場経験もある実業団チームがプロ化してできたこのチームのレベルの高さは、リーグ発足の昨年から言われてきたことであり、今回、それを証明したかたちとなった。
一方で、同じく初参加の北海道フロンティアリーグ(HFL)のレベルの低さも際立ち、大会に水を差すことになった。初日は火の国相手に23点、翌日の3位決定戦では、高知ファイティングドッグス相手に16点の2日間で計39失点。得点は2日目に1点を返したのみであった。正直なところ、同じ土俵で戦うレベルではなかった。
「各リーグのレベルがわかったことは大きな収穫です。KALの火の国サラマンダーズの強さには感心しましたし、北海道に関してはまだまだだと改めて思いました。実際こうしてやってみたからこそ、分かったことは大きいですよ」とIPBLの役員は言うが、HFL関しては、その現場を見たものならばあらかじめ予想はついていたはずである。実際、出場チームの士別サムライブレイズの内部からも、一体何失点で収まるのかが、大きな話題になっていたという。
激動の2年を終えて見えたもの
競技面、運営面において明らかに「プロ未満」のHFLを加入を認めたIPBLの姿勢からは「理念なき拡大」という言葉が思い起こされる。
そもそも「独立リーグ」とは、既存のプロリーグとは別個に「独立して」運営されるリーグのことを刺す言葉である。つまり、「プロ」であることが大前提だ。
独立リーグの本場・アメリカではこの前提はかなり厳格に守られ、「独立リーグ」を名乗るリーグは、プロリーグにふさわしい運営を行い、選手たちはシーズン中は競技に専念する代わりに球団からの報酬を手にする。
例え少額のギャラが出ても、本業を別にもつ者が片手間にプレーをするようなリーグはセミプロと呼ばれ、プロの独立リーグとは明確に線引きされる。リーグの基本方針として、球団から選手への報酬支払いを義務化せず、地元企業への職のあっせんを行い、就業時間外にプレーを行うHFLは、本場の感覚ではセミプロというべきものである。
本来的にはアマチュアの地域リーグとでもいうべきこのリーグにまで門戸を開き、「日本一決定戦」に参加させるのには無理があったと言わざるを得ないことは、今回の結果から明らかだろう。
その一方で、IPBLへの加入が認められなかった日本海オセアンリーグは、ポストシーズンを実施することなく10月4日に全日程を終えた。
その16日後に行われたドラフト会議では、育成指名9人というIPBL勢の結果に対し、福井ネクサスエレファンツの濱将乃介内野手が中日から5位指名を受け、溜飲を下げるかたちとなった。
福井からはシーズン途中にも、昨年日本ハムを「ノンテンダー」というかたちで放出された秋吉亮がソフトバンクと契約結んでおり(シーズン後自由契約)、育成という点では、IPBLから門前払いを食らったNOLに軍配が挙がった格好となった。
しかし、「プロリーグ」にこだわり、選手にそれなりの額の給与を保証することで競技に専念させ、地方での地域密着経営を目指したこのリーグの現実もまた厳しいものだった。
リーグ戦終了後、発表されたのはNPBにふたりを送り込んだ福井球団の活動停止と、来シーズンからの千葉球団の参加であった。
昨年BCリーグから脱退して新リーグを立ち上げる際、CEOの黒田翔一はBCリーグを2つの点から批判した。プロを名乗りながら選手に報酬を払わない球団がある点、それに独立リーグとして本来あるべきNPB球団のない地方に野球文化を根付かせる姿勢が失せてきている点である。
前者は、BCリーグ当局が人材を送り込んで存続させようとした福井ワイルドラプターズを指している。地元スポンサーが離れてしまった福井球団を立て直すため新運営会社を設立したものの、スポンサーは戻ることはなく、資金不足を乗り超える苦肉の策として、リーグ当局は「無給契約」を認めた。加盟全球団に適用されたこのルールだが、福井球団存続のためのものであることは明らかだった。
福井球団はこれを利用して、大半の選手を無給とし、球団があっせんするアルバイトで選手は生活費を稼いだ。プロ球団というより人材派遣会社と化した福井球団の在り方に黒田はノーを突きつけ、新リーグ発足時には新たな運営会社の下、新球団を福井に設置したが、この新球団も結局、地元スポンサーを確保するには至らず、たった1年で解散する羽目になった。
福井に替わる新球団が千葉にできるのは、ネクサスエレファンツのオーナー企業の拠点であるためのようだ。関東圏に重心を移していったBCリーグを批判した黒田だったが、結局地方での球団運営には失敗。早くもその理念を曲げる結果となってしまっている。
リーグ名にある「日本海」地方にフランチャイズを置くのは、BCリーグ発足時の「オリジナル4」だった石川と富山だけとなった。来年からは、西は滋賀、東は千葉とBCに負けず劣らずの広域リーグとなるNOLには遠征費が重くのしかかってくるだろう。
昨年から今年にかけて独立リーグ球界には大きな変化が起こった。しかしこのうねりは今後も止むことはないだろう。
2005年の発足以来毎年絶やすことなくNPBに人材を送り込み、球界における役割は確立したものの、観客動員は右肩下がりで、運営を取り巻く状況は年々厳しさを増している。
それでも、北海道と九州で新球団が発足。いまだ拡大を続ける独立リーグだが、プレーの質の担保という点ではもはや飽和状態になっていると言っていいだろう。
独立リーグ再編の流れは今後も続いていくものと思われれる。
文=阿佐智(あさ・さとし)