第37回:作戦コーチが振り返る今季と来季への展望
日本シリーズを戦い終えたヤクルトは、3年ぶりに愛媛県松山市で秋季キャンプを行い、リーグ3連覇と日本一奪回へ向けて、新たなスタートを切った。
キャンプ3日目。晴天の坊っちゃんスタジアムで、右手にファーストミットをはめた松元ユウイチ作戦コーチが、若い選手たちに交じってシートノックに参加していた。
現役時代を思い起こさせる俊敏な動きを見せた松元コーチは「センターとライトがどういう返球をしているのか見たくて。どういう球筋か確認したかった」と、笑顔でその意図を説明してくれた。
2015年に現役引退後はファームと一軍で打撃コーチを務め、今季から作戦コーチとしてリーグ2連覇を支えた松元コーチに、激闘の今シーズンを振り返ってもらった。
「神宮の開幕戦で連敗してしまったんですけど、本当にみんな1試合1試合最後まで1年間粘ることができた。交流戦で優勝し、全球団に勝ち越せたところは非常に評価できると思っています」
14勝4敗と破竹の勢いで勝ち星を積み上げた交流戦。リーグ戦再開後も強さを発揮し、7月2日には2位と最大13.5ゲーム差をつけ、史上最速のマジック点灯で独走態勢に入った。ところがその1週間後、高津臣吾監督をはじめ多数の首脳陣と主力選手が新型コロナ感染で離脱し、状況は一変した。
「コロナがあって自分も監督代行をやっているときは、何とか高津監督がつくったチームを、負けていても崩さないことをすごく意識していた。選手たちも主力は少なかったんですけど、村上(宗隆)中心で、負けていても何とか最後まで粘ることができた。連敗もしましたけど、チームがそこまで崩れることはなかったので良かった」
7月8日の阪神戦(神宮)から6連敗を喫し、主力が復帰した後も調子が上がらず、8月5日の巨人戦(神宮)から今季ワーストの7連敗。それでも、持ち前のチーム力で苦境を乗り越えた。そして、リーグ優勝へ大きく前進したのが、8月26日から敵地で行われた2位・DeNAとの直接対決3連戦だった。
「横浜(DeNA)が4ゲーム差まできていたんですけど、そこの横浜3連戦で山田(哲人)キャプテンに一言声をかけて、試合前から円陣のところ(の声出し)をお願いした。山田も打撃の方であまり調子が良くなくて本人も苦しかったと思うんですけど、ホームランも打ってくれて、何とか3連勝できたのは良かったんじゃないかなと思っています」
2年連続でリーグ制覇を決めた9月25日。重圧から解放されて涙を流したのが山田だった。そのキャプテン支えていたのが若き4番・村上であり、彼ら主軸につなげるために各々の打者がそれぞれの役割を全うしてきた。
4番を中心とした打線…来季は?
村上は今季、日本選手最多のシーズン56号に加え、史上最年少での三冠王を獲得。ファームのときから村上を知る松元コーチは、球界を代表する選手に成長した22歳についてこう話す。
「(村上が)入団して、2月1日のキャンプで初めて会ったときから、練習に対して常に全力でやっている。タイトルとか獲っても(変わらず)常に全力でやっている村上は、やっぱり素晴らしい」
練習から常に全力で手を抜くことはない。村上の練習に取り組む姿勢は、例え数々の記録を塗り替えても変わることはなかった。松元コーチはそんな村上を高く評価している。
不動の4番がどっしりと構えるヤクルト打線は、今季12球団ダントツの619得点、チームOPS.728をマークした。その打線をさらに磨き上げていくには、どうすれば良いか。来季、松元コーチが描く打線の姿とはどんなものだろうか。
松元コーチは「誰が出るとかは(来年の)2月のキャンプから競争になるわけですけど」と前置きしつつ、こう話す。
「イメージ的には、まず出塁をする、次の塁へ進める、つなぐ。当たり前かもしれないですけど、この(秋季)キャンプもどうやって次の塁に進めるとかそういった面を考えている。その中では常にできること、全力疾走は継続してほしい。ひとつの全力疾走で相手のエラーを誘ったりするところがあるので、それは継続してほしいし、もっともっとやってほしいところではあります」
振り返れば、日本シリーズ進出を決めた阪神とのCSファイナルステージ第3戦の7回、二死満塁の好機で村上はボテボテの投ゴロで全力疾走。ヘッドスライディングで内野安打にすると、相手のエラーも誘って逆転勝ちを収めた。
若手中心で臨んでいる秋季キャンプ、そして来年の春季キャンプでどれだけ全力で練習に取り組んでアピールできるか。それができた選手が、来季の開幕戦でスタメンに名を連ねるのかもしれない。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)