「どうやってもう一度、仕切り直すか」
青臭く、と決めていたテーマは青光るに変わった。
中日からDeNAへトレード移籍が決まった京田陽太選手(28)。交換要員は砂田毅樹投手(27)だった。
トレードを告げられて、ホッとしていた自分がいた。
秋季練習も秋季キャンプもメンバー外。チームの居場所を探そうにも、考えれば考えるほど難しくなる現状があった。
「妻も子どももいますから。どうやってもう一度、仕切り直すか。そればかり考えていました」
抜け出せない回し車から出られたのはトレードだった。
京田自身ではなく、外的要因により将来への不安は少し和らいだ。
「次は青光る。それですね。DeNAは横浜。夜空に光る、というイメージがありますから」
同期に託した選手会長
竜戦士として選手会長も務めた。2020年から3年間、役割を与えられた。
コロナ禍におびえながらの開幕。誰もいないスタンドに座り、初めて観客目線でグラウンドに視線を落とした。これまで見上げていたスタンドは広く、座席は狭い。大きな体を押し込めて、つぶやいた。
「ボク自身、プロ野球を外野席から見た経験はなかったんです。座ってみてショートの定位置まであんなにも遠いとは知りませんでした」
豆粒ほどにしか見えない遠くの打席からのヒットに湧き、一挙手一投足を注目してくれていた。
2017年にドラフト2位で入団。4年目を迎えるシーズンで立ち止まり、考えた。ありがたかったし、野球選手の役割を考えるきっかけにもなった。
成績が落ち込めば、風当たりは強くなる。6年目の今季、初めて規定打席に未到達。立浪新監督の勝利のピースになれなかった。
トレードを受けて口にした言葉は本音。
「6年間、お世話になりましたし、名古屋のいろいろな方の支えでここまで来られました。チームを離れるのは寂しい気持ちもありますけれど、野球人としての京田陽太とすれば、ありがたいチャンスかなと思います」
選手会長は同学年で同期入団の柳に託した。トレードを通告された11月18日夜。電話が鳴った。相手は沖縄・秋季キャンプで汗を流している柳だった。
「少し酔ってないと電話してこない。そこが柳らしい、と思いました。ずっと心配してくれていました。ボクはチームが変わります。選手会長はチームの顔。柳は中日の顔だと言える選手です。『任したぞ、次は頼んだ』と言いました。そしたら『おう、任せとけ』と返ってきました」
耳元から聞こえる雑音で、チームメートと一緒だとすぐに分かった。
しんみりした空気を嫌い、仲間同席の明るい場所から掛けてきた。強い芯を照れで隠す右腕らしさを感じた。3年間握った選手会長のバトンを柳に渡すと告げた。
力づくでポジションをつくり、我が道を行くタイプも球界にはいる。請われてユニホームを変え、与えられた役割を全うするタイプだっている。青光る京田を見ていたいと感じた。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)