円陣でかけた言葉
広島・新井貴浩監督が本格的に指揮官として始動した。
日南秋季キャンプ第2クール・2日目の11月14日にチーム初合流。練習開始前に円陣を組んで、選手34人と首脳陣を前に訓示を行った。
指揮官が訓示を通して伝えたかったことは何だったのか。そして選手はどう感じたのか。
まずは約5分間行った訓示の内容から振り返りたい。
大きく広がった円陣を見て、「集まって。もっと、もっと、もっと」と輪を小さくしてから話し始めた。
「言いたいことは2つある。まず1つ目は、お前たちが思っているより、俺はお前たちみんなに期待している」
「2つ目は、好き嫌いでの起用を絶対にしない」
指揮官は練習後に取材に応じ、「やっぱり一番伝えたかったのは、お前たちが思っているより俺はお前たちみんなに期待しているぞ、という自分の気持ち」と説明している。
訓示内では「シーズン入ると、こんなところで俺が投げるの?こんなところで俺が代打?こんなところでスタメン?俺、一軍に上がるの?ということが多くなると思う」と予告する場面もあった。
これは10月中旬に行われた就任会見で言及していた点と重なる。
チーム再建の道筋についての質問には「まずは若手の底上げ。力をつけさせることが大切」と答え、投手の起用法を問われた際には「1-0で“この(中継ぎ)投手いくの?”ということがあるだろう。逆転されるかもしれないが、腹をくくるしかない。良いことも悪いことも経験しないと成功しない」と思い描いていた。
新井監督は目先の結果だけで選手を評価するつもりはない。期待する選手にチャンスを与え、実戦を通して成長を促そうとしている。
また、「好き嫌いでの起用は絶対にしない」と宣言。訓示内で時間を割いて力説したように理由は明確だ。
「お前たちはカープという大きな家にいる。だから家族同然だと思っている。自分の弟やお父ちゃん、お母ちゃんが嫌いか?それと同じ感覚で、嫌いな奴は1人もいない。みんなが好き。カープという家の中にみんなで一緒に住んで、みんなで切磋琢磨して頑張ろうという考えだから」
現役時代からチームを「家族」と表現してきた。
現役当時の指揮官を知る野間峻祥は「期待していると言っていただくと、より一層やる気が出る」と気を引き締め、ともにプレーした経験のない栗林良吏は「自分のモチベーションも上がるし、チームの士気も上がった」と指揮官の言葉の力に驚いた。
広島に“熱狂”をもう一度
この訓示は、秋季キャンプに参加していない主力にも届いた。
秋山翔吾はメディアを通してチェックし、「助け合い、ときに厳しくするという点で(家族は)凄く分かりやすい言葉だなと感じた」と言及。同じくキャンプ不参加の西川龍馬は「新井さんぽいなと思った」とうなずいた。
そして、図らずも秋山と西川は「僕たちのやることは変わらない」と同じコメントをした。主力としてチームをけん引するという自覚は、前政権から一貫している。
とにかく、わずか5分間の訓示で監督の考えがナインに共有された。
訓示の最後には「楽しいこと、うれしいこと、苦しいことも悲しいこともみんなで共有する。みんなで強くなって、みんなで優勝する。みんなで日本一になりたい」と言葉に力を込めた。
指揮官は、就任会見でファンにメッセージを残している。
「カープファンのみなさまへ。マツダスタジアムで真っ赤に染めてほしいです。そして、選手に力をください。私たちはみなさんを喜ばせ、みなさんの気持ちを真っ赤に燃えさせるように頑張っていきます」
そうした熱狂を起こすためのチーム像が秋季キャンプを通して見えてきた。
「新井カープ」は、赤ヘル一丸を掲げてチーム全員で戦う。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)