36歳のシーズンにパワーアップ?
阿部寿樹とのトレードで中日に加入した涌井秀章が、11月下旬に名古屋市内の中日球団事務所で会見を行った。
現役2番目の通算154勝を誇る右腕が語ったのは、“真っ直ぐ”の重要性。今季のシーズン最高球速は151キロで、平均球速145キロは最多勝を獲得した2020年シーズンの平均144キロを上回った。
真っ直ぐの被打率も飛躍的に向上。対右打者は.147で、昨季は.260。最多勝の2020年シーズン(.258)からは1割以上も良くなった。
対左打者も今季は.246。昨季は.355で、一昨季は.227。なぜ36歳にして数字が改善したのか。右腕は「威力だと思います」と間髪入れずに回答した。
「これまでスピードを出す時は腕を振らないといけなかったのですが、今年は腕を振らなくても(腕が)勝手についてくる形で投げられた。投げた次の日も疲れていませんでした」
次の日の疲れが変化するのは、フォーム変更以外にない。実は1年前、自主トレの時にフォーム変更に着手していたという。
手応えを掴んだ矢先に…
大まかに言えば、「若い時のフォームに戻す」。ただ、今を否定した結果の、若い時代にヒントを得たわけではない。
課題を洗い出し、方向性を探った。その時に出た答えが、若い時にやっていた投げ方だった、という流れ。
ヒントはサンディエゴ・パドレス所属のダルビッシュ有。同学年で交友のあるダルビッシュに相談し、トレーナーの紹介を受けた。
現状を伝えると、改善点を提示された。
「言われたことは自分の感じていたことでした」
ポイントに置いたひとつは、体のねじれ。ひとつ変えたら、すべてを再構築しなければならないのがフォーム。左肩の入り方、体重移動、踏み出す形……。その結果として、「若いころのフォームに戻った感覚」を得た。
投げたら腕は「振る」のではく、「勝手についてくる」ようになった。
誤算は5月。打球を右手に受けた。中指の骨折。思いもしないアクシデントにより、感じた手応えを結果で証明するシーズンは2023年になった。
ユニフォームは楽天から中日へ。最多勝は過去4度(2007・2009・2015・2020)。西武時代に2回とロッテ、楽天で1回ずつ。
すでに“3球団で獲得”という史上初の看板は手にした。次の「初」は、セ・パ両リーグ最多勝。右腕は「(最多勝を)獲れずに(トレードで)取った意味がないと思われてもしょうがない。もちろん獲りたいと思う」。目標を公言した。
高校の後輩にも刺激
速球が軸なのは、一流投手共通。
「ストレートが基本になっていて、それが落ちてくると変化球も打たれやすくなる」
1年前、35歳でのフォーム変更。やならいと先が短くなると心の声が教えてくれた。だからチャレンジし、活路を見いだした。
先発陣の中で、投球全体における速球の割合は5割弱。髙橋宏斗は51.2%で半数を超えていた。
別の投手を見回すと、大野雄大が突出していた。今季こそ48.8%だったのもの、過去5年で5割超。2018年には6割超え。どれだけ真っすぐで押していたか想像できる。
チームの先発は大野雄と柳裕也の両輪。涌井は柳を「人一倍、厳しい目を向けます」と語った。横浜高の後輩で、ともに自主トレで汗を流したことだってあった。
もうひとり、横浜高の後輩には福田永将がいる。「打ってもらいたいですね」。2学年下で、甲子園ではバッテリーも組んだ。
福田も「まず試合に出られるように、そして涌井さんが投げる試合で1本でも多く打ちたい」と意気込む。
両輪に加え、若手の小笠原慎之介がもう一皮むけ、侍のユニフォームに袖を通した髙橋宏がガンガン投げ込む。中5日もいける松葉貴大がいる。
最下位に沈んだ竜に、いまだ衰えない男が加わった。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)