第2回:日本で活躍した助っ人がメジャーに出戻る“逆輸出”が急増している理由
メジャーリーグからビッグニュースが飛び込んできた。
名門・レッドソックスが、オリックスからポスティング・システムで海外挑戦を表明していた吉田正尚選手と契約合意したと、複数メディアが伝えたものだ。
契約金は5年総額9000万ドル(約123億円)で、オリックスへの入札金1540万ドル(約21億円)を含めると、実に総額1億540万ドル(約144億円)の巨額。吉田の今季年俸は4億円、来季以降は24億6千万円に跳ね上がる計算だ。(数字はすべて推定、以下同じ)
円安ドル高の日米経済格差は、一時期より落ち着きを見せているが、それでも野球界への影響は大きい。
顕著な例はヤクルトの絶対的クローザーとして活躍してきたスコット・マクガフ投手の退団に見ることが出来る。
今季も38セーブを記録してチームのセ・リーグ連覇に貢献したマクガフに対して、球団側はシーズン終了直後から残留交渉を進めてきたが、本人の退団意思は固く慰留を断念したと言う。
もう一人、気になるのはロッテのロベルト・オスナ投手の去就だ。今季シーズン途中の6月にロッテに入団した元メジャーのセーブ王は160キロ近い快速球を武器に4勝9ホールド9セーブの大活躍。シーズン終盤には益田直也投手に代わって守護神の座を任されていた。球団としては当然、来季の重要戦力としていたが、こちらも自由契約の道を選んで現在はロッテ残留の可能性は残しながらも、日米で争奪戦が展開されている。
ちなみにマクガフの今季年俸は1億2430万円。オスナは9000万円だが、来季のメジャーリーグ最低年俸保証は720万ドル、日本円で1億円近い。彼らが、活躍の場を再び米国に求めて、ビッグマネーを狙うのも理解できる。今や日本経由米国行きの“逆輸出”は時代の流れとも言える。
助っ人たちが、日本で活躍してメジャーに出戻る“逆輸出”。これまでもなかったわけではない。
最大の成功例は1980年代後半に阪神で活躍したセシル・フィルダー選手や近年では2018年まで巨人に在籍したマイケル・マイコラス投手らが挙げられる。
来日1年目でいきなり38本塁打をマークしたフィルダーは、その後デトロイト・タイガースに移籍すると2年連続で本塁打、打点の二冠王に耀くなど大ブレークしてメジャーの顔として君臨した。
巨人時代に勝率1位や奪三振のタイトルを獲得したマイコラスはカージナルスに移籍した直後の18年に18勝をあげて最多勝。翌19年には4年総額6800万ドル(約88億4000万円)の破格長期契約を勝ち取っている。
最直近では元日本ハムのクリス・マーティン投手がこのオフにレッドソックスにFA移籍して2年総額1750万ドル(約24億5000万円)で契約。他にも元阪神のロベルト・スアレス投手も先日、パドレスと5年総額4600万ドル(約64億4000万円)の長期契約を結んでいる。これでは、マクガフやオスナの心が揺れてもおかしくない。
日本野球のレベルアップがメジャーでも認知される
では近年、日本からの“逆輸出”選手はなぜ、急増しているのか?
国内とは比較にならない日米の経済格差を外的要因として挙げるなら、もう一つは日本野球のレベルアップが本場でも認知されだした点がある。
大谷翔平やダルビッシュ有らの活躍で日本人投手の評価は高い。となれば、そこで活躍する外国人選手も比較対象となる。
メジャーでは近年、日本に限らずアジアへのスカウト網を強化。担当者は最新機器を使って球速だけでなく、スピン量や被打率などを分析していく。選手側も代理人を立てて交渉に臨むから巨額のトレードが実現しやすくなる仕組みだ。
このオフには例年以上に多くの外国人選手が自由契約とされた。巨人ではC・Cメルセデス、ルビー・デラロサ投手ら7選手。阪神でもジェフリー・マルテ選手やジョー・ガンケル投手ら6選手が退団。ソフトバンクではアルフレド・デスパイネ、ジュリスベル・グラシアル選手ら大物も整理対象に挙がっている。
球団にとって、新外国人選手の獲得は来季の戦力補強の重要ポイントでもある。失敗すれば、大きなマイナス要因を抱え込むことになる。
果たして、守護神・マクガフの退団は王者ヤクルトにどんな影響を及ぼすか?
有力選手を引き留めるには、高額プラス長期契約が当たり前となった時代。編成担当者には苦悩の日々が続く。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)