周囲からの傑出度を“偏差値”で測る
シーズン開幕直後から「投高打低」と言われ続けた2022年。
そんな打者不利の状況においても、王貞治(巨人/1964年)やタフィ・ローズ(近鉄/2001年)、アレックス・カブレラ(西武/2002年)が持つ55本塁打を抜き去り、ウラディミール・バレンティン(ヤクルト/2013年)の持つプロ野球記録・60本塁打に次ぐ歴代2位のシーズン56本塁打をマークした村上宗隆(ヤクルト)。その打撃成績が周囲から飛び抜けたものだったことは間違いない。
では、今季の村上の傑出度はいかほどのものだったのか。それを測るために“偏差値”を使ってみたい。
説明不要かもしれないが、偏差値とは「あるデータの平均値を50とした場合の母集団内における相対的な位置を示す数値」である。高校や大学の受験をした経験のある多くの人におなじみだろう。
今季、セ・パ両リーグを通じて30本塁打以上を記録したのは、村上のほかに岡本和真(巨人/30本塁打)、山川穂高(西武/41本塁打)というわずか3人だった。
長打が減少傾向にあるなかで、村上の長打力は周囲からどれほど抜きん出ていたものだったのか。また、その傑出度は過去の長距離砲と比べてどれほどのものだったのか。
今回は2013年以降の直近10シーズンで、当該シーズンの所属リーグ規定打席到達者における「長打率」の偏差値を求め、トップテンを紹介する。
ヤクルト勢がトップスリーを独占
▼ 直近10シーズン・長打率“偏差値”ランキング
1位 85.81 村上宗隆(ヤクルト/2022年)
長打率.710 規定打席到達者平均.424
2位 81.14 ウラディミール・バレンティン(ヤクルト/2013年)
長打率.779 規定打席到達者平均.446
3位 79.73 山田哲人(ヤクルト/2015年)
長打率.610 規定打席到達者平均.414
4位 77.56 鈴木誠也(広島/2021年)
長打率.639 規定打席到達者平均.436
5位 76.72 柳田悠岐(ソフトバンク/2020年)
長打率.623 規定打席到達者平均.429
6位 75.81 柳田悠岐(ソフトバンク/2018年)
長打率.661 規定打席到達者平均.442
7位 75.76 柳田悠岐(ソフトバンク/2017年)
長打率.589 規定打席到達者平均.431
8位 75.45 柳田悠岐(ソフトバンク/2015年)
長打率.631 規定打席到達者平均.419
9位 74.44 山川穂高(西武/2022年)
長打率.578 規定打席到達者平均.403
10位 74.42 筒香嘉智(DeNA/2016年)
長打率.680 規定打席到達者平均.449
※当該シーズンの所属リーグ規定打席到達者における長打率の偏差値
こうして見ると、今季の村上だけでなく、2013年のバレンティンに2015年の山田哲人と、ヤクルト勢がトップスリーを独占する結果となった。狭い本拠地・神宮球場が味方となった部分もあるかもしれないが、それでも近年のヤクルト勢の打撃力の高さに疑う余地はない。
他に目を引くのは柳田悠岐。自己最高は2020年に残した偏差値76.62の5位だが、トップテンのなかにひとりで延べ4度もランクインした。
そして名だたる長距離砲が並ぶなかで、偏差値85.81で堂々のトップに立ったのが今季の村上。「偏差値80が上位0.13%」ということを思えば、通常では考えづらい異常ともいえる数字である。
2013年のバレンティンがマークした長打率.779はシーズン長打率のプロ野球記録だが、当該シーズンの所属リーグ規定打席到達者における長打率の平均は、今季のセ・リーグが.424に対し、2013年のセ・リーグは.446と高かった。そのため、周囲からの“傑出度”という意味では村上がバレンティンを上回ったかたちだ。
今季、野球ファンはまさに歴史的瞬間を目のあたりにしたといえる。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)