最終回:山本のメジャー挑戦は時間の問題…オリックスは弱体化の危機をどう乗り越えるのか
球界No.1エース・オリックスの山本由伸投手が27日に契約交渉を行い、実に2億8000万円アップの6億5千万円でサイン。(金額は推定、以下同じ)最多勝、最優秀防御率など投手4冠に、MVPも共に2年連続と、年度代表選手にふさわしい大型契約となった。
山本が得たものはそれだけではない。かねてから球団に要望していたポスティングによるメジャー挑戦が現実味を増して来たのだ。
「野球界トップのリーグ、一番の舞台。そこでやりたい」
「思いは十分に伝えました。(吉田)正尚さんのように球団は全くダメなわけではなく、選手の事を一番に考えてくれます」と昨年以上の手応えをつかんだようだ。
今季がプロ6年目の24歳。海外FA権を行使できるのは最短27年のオフだが、抜群の実績を考慮して、来オフのメジャー行きも見えてきた。
球団側とすれば、来季も抜群の働きを見せてくれれば、の条件付きで認めざるを得ないところまで来ているのも事実だろう。
年俸の6億5000万円は、今オフの契約でソフトバンクにFA移籍した近藤健介選手(前日本ハム)の7年総額50億円に次ぐ高額である。過去に楽天・田中将大投手が9億円(21、22年)巨人・菅野智之投手が8億円(21年)と破格で契約した例はあるが、これはメジャー帰りだったり、メジャー行きを引き留める特殊な事情があった。それ以外の日本球界では6億円がスーパースターの相場となっていた。
山本が来季も無双の働きを見せれば、年俸はさらにはね上がり、8~9億になるのは必至。これは球団経営から見ると“限界点越え”を意味している。加えて吉田正尚選手のポスティングを認め、レッドソックス移籍が決まった経緯もある。もはや、山本のメジャー挑戦は時間の問題と言っても過言ではない。
スター選手の希望優先の流れは止められない
それにしても、投打の看板選手が短期間で海外流失ならチームは屋台骨を失う重大な危機である。
今オフには西武から森友哉選手を4年総額16億円で獲得。直近ではメジャー107本塁打の実績を持つマーウィン・ゴンザレス選手(前ヤンキース)の獲得が報じられるなど、吉田不在の打線テコ入れに躍起だが、山本までメジャー行きとなると「替え」は効かない。それでも、選手の希望優先の流れが止められない以上、フロントは大きなチーム改造に踏み切るしかない。
スター選手がFA権を取得した場合、海外挑戦か、国内移籍か、残留の3つの道がある。これまで国内を見れば巨人、ソフトバンクと言った「金満球団」が大物選手を次々に獲得していったが、近年はメジャー志望が急増中だ。
国内よりさらに高いレベルで挑戦したいとの思いと同時に、吉田や千賀滉大投手(ソフトバンクからメッツ)の例を引くまでもなく、5年100億円と言った長期で高額な契約が実現。さらに球団側からすると、FAでチームを去られるより、ポスティング制度を認めれば高額な移籍譲渡金も手に入る。吉田の場合は約20億円の譲渡金がオリックスに支払われる仕組み。仮に来オフに山本のポスティング移籍が実現すれば、再び20億円以上の譲渡金が見込める。2人の年俸分を併せれば、球団は50億以上の補強費が生まれると言う計算も成り立つわけだ。
メジャーでは、ヤンキースやドジャースのような資金力豊富なチームとマネーゲームには参戦できないチームに二極化が進んでいる。弱小チームの中には有望な若手を育てて経費削減を目指すチームもある。
金銭面での日米格差が大きくなり、メジャーへの流失が相次ぐ中で、国内の球団経営も遅かれ早かれ、米国流に倣っていくことになるだろう。
吉田に次いで、山本も去ることになれば、弱体化が危惧されるオリックス。一方で潤沢な資金を手に入れることで思い切った補強策も可能になる。
これからの日本球界を見渡した時、オリックスの新たなチーム作りは大きな試金石となるかも知れない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)