コラム 2023.01.01. 17:08

中日・髙橋宏斗が残した「31.1%」の衝撃 元エースも「開幕投手」に太鼓判

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中日・髙橋宏斗 (C) Kyodo News

「圧倒的、一番です」


 年の瀬も押し迫った12月下旬だった。中日の元エース・吉見一起さんが愛知県内で開いた野球教室に、次世代エースの髙橋宏斗が参加した。

 空き時間を利用して、吉見さんに髙橋宏斗のデキを聞いてみた。

 「ボクはドラゴンズで一番だと思って見ていました。開幕投手、やれると思っていますよ」。あまりにサクッと答えるのと、「開幕投手」というパワーワードのギャップにひと息つきたかった。

 数秒おいて、「あの、本当に?開幕投手?」と尋ねる。間髪入れずに、答えは返ってきた。

 「はい。圧倒的、一番です。僕のYouTubeでも言ってきました。宏斗は今年、中10日を目安に投げていました。来年は中6日で回るでしょうし、来年はもう、ローテの中心じゃないですかね。小笠原と宏斗が引っ張っていかないといけませんよ」


 吉見さんが引退したのは2020年。2度の最多勝に輝き、竜投を引っ張った押しも押されもしないエースだった。

 惜しまれながらユニフォームを脱いだオフ、入れ替わりで入団したのが、中京大中京高からドラフト1位指名を受けた髙橋宏だった。背番号19を受け継いだ。

 開幕投手指令とも言える発言は「背番号19の後継者だから?」とも聞いた。吉見さんは「いやいや、それは関係ないですよ」。なかなか信用しない記者を、笑っていた。「高橋宏・開幕あり」は、まぎれもない本音だった。


「まずスタートラインに立ちたい」


 髙橋宏は2022年に一軍デビューした。19試合の登板で6勝7敗、防御率2.47。最速は158キロ。球団の日本人最速記録を更新した。

 大きな武器は空振り率31.1%のスプリット。2019年から2年連続で奪三振王に輝き、来季からメッツでプレーするソフトバンク・千賀滉大が今季マークした『お化けフォーク』の空振り率32.3%に迫る数値をたたき出している。

 同シーズンの最多奪三振のタイトルに輝いたのは、セ・リーグは巨人の戸郷翔征で、パ・リーグはオリックス・山本由伸。ともに決め球はフォーク。空振り率は戸郷が24.7%で、山本は24.6%。髙橋宏は規定投球回に到達していないからイニングが少ない。とはいえ、空振り率の数字は、高卒2年目のスプリットが一級品だと物語っている。


 吉見さんが開幕候補筆頭に掲げるのには、中日先発陣の年齢構成にもあった。

 30代中盤の大野雄大と20代後半の柳裕也の二本柱がいつまでも続いていては、未来は明るくない。

 「2022年は柳、大野というのが筆頭でいました。次に小笠原がいました。その次(髙橋宏)だったかもしれませんが、いつまでも大野雄、柳に頼っていてはダメなんです。小笠原は2年連続規定投球回にいって、今年は2ケタ勝った(10勝8敗)。宏斗に頑張ってもらいたいでよね」

 吉見さんの言葉を、髙橋宏は隣で聞いていた。時折うなずき、時折考える。記者が「吉見さんが開幕投手の話をしたよ?」と話を振る。二十歳の青年は背筋を伸ばした。

 「ボクは一軍で投げたのは今年が1年目。中6日で投げて、規定投球回に到達したいと思っています。規定きってからだなと思っています。(勝利数など新聞紙面の)項目別ランキングも、規定にいかないと載らないです。規定到達でまずスタートラインに立ちたい、と感じています」

 厳しいプロの世界の扉は開いた。ただ、まだ怖さも知らないし、未来のキャリアを描く余裕もない。まずは規定投球回到達をノルマに掲げた。

 髙橋宏は11月に行われた侍ジャパンの強化試合に最年少で選ばれた。竜に髙橋宏あり、は日の丸のユニフォームを着る右腕を見た数だけ分かっている。

 次は、背番号19がどうのし上がっていくか。もしかしたら、開幕戦の3月31日、敵地・巨人戦のマウンドに立っているのかもしれない。


文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)

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