コラム 2023.01.02. 12:04

いま改めて振り返りたい杉谷拳士の“珍”パフォーマンス

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「泣くな、拳士」恩師・栗山英樹氏から花束を渡され涙を流す杉谷拳士 (C) Kyodo News

お馴染み「スポーツ王」にも2年ぶり参戦


 昨季終了後、現役引退を電撃発表した杉谷拳士。プレー以外でも注目を浴びた“グラウンドのエンターテイナー”の突然の決断に、多くのファンが驚きの声をあげた。

 14年のキャリアで規定打席到達は一度もなく、通算成績も打率.212、16本塁打、104打点。そんな男が多くのファンに愛された理由が、抱腹絶倒の珍パフォーマンスの数々だ。

 今回はその中でも記憶に残る名場面・珍場面を改めて振り返ってみたい。


左右両打席、2打席連続本塁打の快挙も“ガン無視”


 2012年6月26日の楽天戦。杉谷は6回に川井貴志から左越えに4年目のプロ1号を放った。

 「打った瞬間に入ったと思った。一軍にしがみついて勝利に貢献したい」と初々しいコメントを口にした杉谷だったが、試合は1-2の敗戦とあって、記事が載らなかった新聞もあった。

 ところが、次の日の楽天戦でチームの後輩・西川遥輝もプロ1号を放つと、「前日の杉谷に続いて2日連続のプロ1号」と、あたかも“後輩のついで”のような扱いで、1日遅れの報道となった。


 杉谷といえば、2019年5月23日に同じ楽天戦で左右両打席による2打席連続本塁打の快挙を達成したときも、チームメイトから“ガン無視”の扱い……。

 流行していた“サイレント・トリートメント”ならぬ「あれはサイレント・サイレントで、ただの無視ですよね」とボヤいてたが、まるで7年後を暗示するかのような“ついでに紹介”プロ1号だった。


ウグイス嬢の“杉谷いじり”


 杉谷が多くのファンに知られるきっかけとなったのは、西武のウグイス嬢・鈴木あずささんによる“いじり”だった。

 2014年7月ごろ、ビジターの西武戦の際に、杉谷が「打撃練習終了のアナウンスの際に、“杉谷選手、打撃練習終了です”と言ってほしい」と頼んだのが始まり。

 突然の風変わりなリクエストに、鈴木さんも当初はためらったが、その後「やってくれないの?」と催促され、最終カードとなった10月2日に深夜番組のノリでやってみたところ、大好評となってすっかり定番化した。


 2015年8月11日からの3連戦では、「打って走れる期待のスイッチヒッター・杉谷選手、打撃練習あと10分です」「先日、今シーズン1号を見せました杉谷選手が打撃練習を行っております。大きな打球がスタンドに入る場合がございます。まれに入らない場合がございますが、皆様、すべての打球にご注意ください」などの珍アナウンスが流れた。「ウグイス嬢が3日連続“口撃”」の報道により、杉谷を知ったファンも多いはずだ。


 杉谷の代名詞にもなった“野球の上手い芸人”のパフォーマンスが本格化したのは、2018年ごろからだった。

 5月12日のソフトバンク戦では、右足に死球を受けて倒れ込んだ直後、すぐに立ち上がって何事もなかったように一塁へスタコラサッサ。かつての達川光男(広島)を彷彿とさせるユーモラスな姿に、一塁側のソフトバンクファンまで爆笑した。

 さらに次の打席も、左足つま先への死球。球審が「ボール!」とジャッジすると、杉谷は腰の高さまで足を上げて、「当たった、当たった!」と、これまた達川そっくりのパフォーマンスを披露し、くしくもソフトバンクベンチにいた達川コーチを苦笑させた。


まるでコントみたいな掛け合いも


 そんな“杉谷劇場”が佳境に入ったのは、コロナ禍で開幕が3カ月遅れた2020年だった。

 プロローグは7月19日のロッテ戦。右足かかとに押し出し死球を受けた杉谷は「あ、痛あ!よっしゃあ!」と雄叫びを上げ、その声は観客数制限中の静かな球場中に響き渡った。

 同26日のソフトバンク戦では、二盗を試みた川島慶三をタッチアウトにした杉谷だったが、リプレー検証に持ち込まれると、突然「最初はグー」と2人でじゃんけんを始めた。パーを出した杉谷は、チョキの川島に負けてしまったが、判定は当初のとおり、アウト。「じゃんけんでは負けた杉谷、判定では勝ちました」と実況された。


 8月20日の楽天戦では、送りバントした際に跳ね返った打球が左手に当たったにもかかわらず、素知らぬ顔で一塁へ。球審が「ファウルだ」と呼び戻すと、「バレちゃあ、仕方がねえ」とばかりにUターンしてきた。

 同30日のソフトバンク戦では、代打で登場したのにアナウンスを見事に忘れられ、「オイオイ!」とバックネット方向に右手を差し出しながらアピール。慌てたウグイス嬢も「代打・杉谷」を早口で告げ、まるでコントみたいな掛け合いだった。

 さらに10月30日の西武戦では、セーフティーバントの直後、バウンドした打球を避けようと左足を高く上げたのに当たってしまい、守備妨害アウトという珍プレーも演じている。


「本当に幸せな野球人生だった」


 そしてラストイヤーとなった2022年。この年は“お詫び”シーンが相次いだ。

 サヨナラ押し出し四球でヒーローになった5月1日の西武戦では、「何かすいませーん」とサヨナラ打でなかったことを詫びた。

 長谷川勇也の引退試合となった10月21日のソフトバンク戦では、9回に起死回生の同点二塁打を放ち、ホークスファンで埋まったスタンドをシラーッとさせたことから、「必死でやっていたので、勘弁してください」と平身低頭だった。


 そして、引退発表後に最後の出場試合となった11月5日の侍ジャパン戦では、前出の鈴木さんが隠密で東京ドームに出張。最後の杉谷いじりをするというサプライズもあった。

 内心「あー最後、鈴木さんがアナウンスしてくれたらいいな」と願っていたという杉谷は「本当に幸せな野球人生だったな」と満足しながら14年間の現役生活を終えた。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)



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