第3回:「優勝しか狙わない」大勝負のシーズンを迎える新庄日本ハム
“新庄節”が、いきなりさく裂した。
18日に都内で行われた12球団監督会議。「プロ野球の魅力向上」をテーマに各監督がフリートーク形式で野球界の将来について語り合った。
中でも周囲の度肝を抜いたのは新庄監督の「12球団シャッフル論」だ。
シーズン終了後に、12球団監督が抽選を行いセ・パに振り分ける、と言う仰天提案である。さらに「監督を(他球団と)代えても面白い」とのジョークまで付け加えては、どこまでが本気か疑わしい。
現実的には、球界の大きな変革にはオーナーたちの承認が必要となる。そのオーナー連も過去には1リーグ制の意向や、エキスパンション(球団数の拡大)などが話し合われた経緯がある。一部球団には収益構造の観点から現体制の維持をかたくなに主張する向きもあった。
新庄監督からすれば、プロ野球がさらに魅力あるスポーツに生まれ変わるための思いもあったはず。「今日、僕が提案した案が大きくなって6~7年後に開催されたら嬉しい」と長期的な視野であることを強調する。今すぐ、各球団が同意するのは無理でも、近い将来に“瓢箪から駒”の大改革がないとは言えない。いずれにせよ、「宇宙人」らしいお騒がせ発言だった。
そんな話題作りに事欠かない指揮官も、一方では自らの足元を見つめ直す時期に来ている。
就任1年目の昨季は「優勝は狙わない」ともっぱらチーム大改造に着手。年間通して「トライアウト」を公言、故障者を除く全選手を1軍で起用して話題を呼んだ。戦術面でも奇襲、奇策を好んで使ったが、今季は一転、「優勝しか狙わない」と宣言する。
新球場となる「エスコンフィールド・北海道」の開場元年。断トツの最下位に終わった昨年の二の舞は許されない。指揮官自身が変わらなければならない大勝負のシーズンを迎える。
「最下位から優勝」と宣言するも現実は厳しい
変身の第一歩は今月9日に行われたスタッフ会議から見てとれた。
沖縄・名護キャンプ初日から紅白戦を実施して、2月中には1軍メンバーを固定したいとチーム作りを一変させる。昨年はタレントの武井壮氏や室伏広治スポーツ庁長官ら多くの臨時コーチを招いたが、この春はそれもなし。さらに「今年はコーチと相談しながら、好き勝手はやらない」とBIG BOSS1人が目立った立ち位置を反省して、合議制を取り入れると言う。
一言で「最下位から優勝」と宣言しても、現実は厳しい。
59勝81敗3分けに終わった昨季は5位のロッテからも9ゲーム差をつけられている。チーム打率(.234)同防御率(3.46)はリーグ5位ながら、得失点差は最下位、つまりこれと言ったストロングポイントは見当たらない。
加えてシーズンオフには打線の中心であった近藤健介選手がFAでソフトバンクに移籍して大きな穴が開いた。投手陣を見渡しても上沢直之、伊藤大海、加藤貴之までは計算出来ても、そこから先はおぼつかない。打撃陣では首位打者に輝いた松本剛、昨季は自己最多18本塁打で大砲役の期待を担う清宮幸太郎、4番の実績がある野村祐希選手らがさらに成長することが上位進出の絶対条件となる。
新庄監督誕生の背景には、話題作りや人気浮上の側面があったことは確かだ。10年に及んだ栗山英樹前監督時代の後期にはマンネリも手伝って、成績は低迷。新球場移転を前にファンの耳目を集める意味では指揮官・新庄はうってつけの存在だっただろう。しかし、監督だけが目立ってもチームが弱くては本物の再建とはならない。今季は新球場人気も手伝って、一定以上の集客は期待出来る。だが、その後も低迷期が続くようだと監督の存在そのものが危うくなってくるのは必定だ。
球団では今季から、元日ハム監督で、前エンゼルスの選手育成コーチだったトレイ・ヒルマン氏と新たにコンサルタント契約を結んだ。主に新外国人選手獲得時のスカウティングや、外国人選手、コーチ陣へのカウンセリングを行う。春季キャンプから参加予定だ。
ヒルマン氏と言えば、新庄監督誕生前には再び監督候補として名前が挙がったほどの人材。メジャーの監督も務めたほど経験豊富な指導者だけに、一部には新庄監督の「お目付け役」と見る者もいる。
目立ってこその新庄と、はしゃぐばかりにはいかない新庄。お騒がせ監督の正念場が、間もなくやって来る。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)