「シーズン中盤以降」を見据えて
チームをけん引する自覚と覚悟が球場には充満していた。
静岡県沼津市の県営愛鷹球場。8日からスタートしたタイガース・青柳晃洋の自主トレは10日が経とうとしていた。
「だいぶ順調には来ていると思いますね。しっかりと投げられていますし、ピッチングもできている。自分の中では例年より良いオフを過ごせていますね」
朝9時から始まる一日は、アップや体幹トレーニングに1時間以上かけるところから始まる。
ピッチングや内野でのゴロ捕球を終えるのは昼過ぎ。この日はグラウンドでの最終メニューとして、スタンドの階段計1500段を駆け上がると、すぐに外野でメディシンボールを投げ始めた。
「今の階段ダッシュできつくなったあとに(ボールを投げて)フォームが崩れないように。(疲労で)体幹をもっていかれやすいところできれいに踏み出せるように」
想定しているのは、疲労が蓄積し始めるシーズン中盤以降だ。
昨年は投手三冠を獲得した右腕も、9月は防御率4点台に終わるなど失速気味ではあった。
「(トレーニングでは)疲れた時になぜできないかを意識する。自分も勝てない時期というのを無くせるように」
今から“免疫”をつけておくことが実際に訪れる正念場で必ず生きる。「数字が残るものはすべて上回っていきたいので。キャリアハイを目指す」と完全無欠の投手へ、1月から明確な意図を持って準備を進めている。
自身と同じ“ドラ5”戦士とともに
そしてもう一つ注力しているのが、合同自主トレを行っている後輩たちのサポート。3年目の村上頌樹、2年目の岡留英貴は奇しくも青柳と同じ大卒のドラフト5位入団だ。
「ちょっと意識を変えれば一軍で活躍できると思った2人に自分から声をかけて呼んだ」と、自らの経験を踏まえた助言を送っている。
「足を着いてから投げる」が合い言葉。投球において言うまでも無い常識のように聞こえるが、先輩右腕いわく重要かつ、難しいことでもあるという。
「当たり前のことが当たり前にできなくなってくるのがプロ野球選手というか。村上も岡留もその(足を着く)タイミングが合えば素晴らしいボールを投げる。僕もそれを覚えてから活躍した選手なので」
青柳自身、プロ入り当初は二軍でくすぶり、3年目には戦力外通告も覚悟したほど。そこから「足を着いてから投げる」の意識など、地道に技術向上を目指してエースと呼ばれるまでになった。
静岡では、そんなひとつひとつの成功体験を2人に伝える日々。投手陣の先頭を引っ張る男は「僕一人が頑張っても(優勝は)見えてこない。そういう部分では村上も出てきて欲しい、岡留が僕の後ろを投げて勝たせてくれたら嬉しい。僕だけ頑張ってもチームの優勝はできない」と、“アレ”を目指すチームの底上げにもつながる自主トレという位置づけでいる。
「昨年13勝だったら15勝を目指したいし、勝率も(黒星が)4敗だったらもっと少なく。その上で勝ちが増えれば上がっていく。現状維持ではなく上にいけるように」
“チーム青柳”のリーダーは背中でも、数字でも後輩たちをガンガン引っ張っていく。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)