コラム 2023.02.13. 16:30

引退試合で空振り三振のつもりがまさか…記憶に残る「本塁打王争い」3選

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横浜時代の村田修一が大接戦で本塁打王に輝いた裏には…? (C) Kyodo News

大接戦からダブルスコアまで…


 村上宗隆(ヤクルト)の56号に、アーロン・ジャッジ(ヤンキース)の62号──。昨季は日米球界で本塁打の数が大きな話題となった。


 そこで今回は、前回の「ノーヒットノーラン」3選に続き、過去の「本塁打王争い」をピックアップ。

 筆者がリアルタイムで知る1984年以降における、個人的に印象に残っている3つの出来事を時系列で紹介していきたい。


1997年セ・リーグ『ホージーvs.松井秀喜』


 この年のセ・リーグは、野村克也監督率いるヤクルトが開幕ダッシュに成功。一時は横浜に詰め寄られたが、終盤に地力の違いを見せつけ、最終的には11ゲーム差をつけてペナントを制した。


 一方で、最後まで熾烈を極めたのが本塁打王争いだった。

 最終的に30本台に乗せた打者は6人を数えたが、終盤にかけてデッドヒートを演じたのがドゥエイン・ホージー(ヤクルト)と松井秀喜(巨人)の2人である。

 当時の松井はすでに球界を代表する長距離砲として君臨。前年にはリーグMVPに輝いていたが、1本差で本塁打王を逃しており、初タイトル獲得の期待を背負っていた。

 その期待に応えるべく、4月にいきなり10本のアーチを放つと、それ以降も安定して月5~6本ペースで本塁打を積み重ねていった。9月終了時点で37本まで数字を伸ばしていたが、10月の4試合で一発は出ず。結局、前年に続き1本差でタイトルを逃してしまった。


 そんな松井に競り勝ったのが、来日1年目の助っ人ホージーだった。

 開幕前は野村監督に酷評されるも、努力で日本の野球に適応。開幕当初は7番だった打順も最終的には中軸を打つまでに信頼を勝ち取っていた。

 1年目からチームの全137試合に出場し、描いたアーチは38本。スイッチヒッターとしては史上2人目の本塁打王獲得だった。


 97年は最後までタイトルを争った2人だが、翌98年は明暗を分ける。

 ホージーは開幕から不振を極め、13本塁打に終わると、同年限りで退団。一方の松井は34本塁打を放って初めての個人タイトルを獲得し、その後も2000年と02年の計3度本塁打王に輝いている。


2007年セ・リーグ『村田修一vs.高橋由伸/ガイエル/ウッズ』


 この年のセ・リーグのペナントレースは巨人・中日・阪神による三つ巴の争いとなった。

 9月下旬にまず阪神が脱落。巨人と中日の一騎打ちとなったが、最後は巨人が抜け出して中日の連覇を阻止した。


 8人の打者が30本塁打以上を放った本塁打王争いはペナント以上にもつれた。

 結論から言うと、36本を放ち単独で本塁打王に輝いたのが村田修一(横浜)。そして高橋由伸(巨人)、タイロン・ウッズ(中日)、アーロン・ガイエル(ヤクルト)の3人が1本差の35本で2位に終わった。


 実はこの年の村田はシーズン中盤まではかなり劣勢で、6月末時点では12本塁打。ウッズの20本、高橋の18本、ガイエルの16本に大きく後れを取っていた。

 7月も3本しか上積みできなかったが、それ以降に大爆発。8月に8本、9月に9本、そして10月にも4本を放ち、単独トップでシーズンを終えた。


 村田のシーズン36号は4人が35本で並んでいる状態で飛び出したが、この一発を放った相手投手は前広島監督の佐々岡真司だった。

 地元・広島での引退試合で、村田は空振り三振に倒れるつもりだったとか……。もしこの1本が出ていなければ、4人が本塁打王を分け合っていたかもしれない。


2011年パ・リーグ『中村剛也vs.松田宣浩』


 2011年のパ・リーグ本塁打王争いも印象深い。

 この年のパ・リーグはソフトバンクが後半戦に圧倒的な強さを見せつけ優勝。日本シリーズでも中日を下して、ダイエー時代の03年以来の日本一に輝いた。


 この年は開幕から統一球問題が物議を醸した。

 前年はプロ野球全体で1600本以上の本塁打が飛び交ったが、いわゆる飛ばないボールが導入されたこの年は1000本以下まで激減。パ・リーグでは防御率1点台の投手が4人も出現する異常事態となっていた。

 史上空前の「投高打低」となったシーズンで、パ・リーグの本塁打王に輝いたのは、48本を放った中村剛也(西武)。25本を放った2位の松田宣浩(ソフトバンク)に2倍近い大差をつけた。

 ちなみに、中村がシーズン26号を放ったのは7月16日。オールスターの約1週間前にはタイトル獲得を確定させていたことになる。また、同年のロッテはチーム全体で46本塁打しか記録しておらず、中村一人にも及ばなかった。


文=八木遊(やぎ・ゆう)
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