第3回:各チームの指揮官の「怒り」の意味を読み解く
WBC侍ジャパンの宮崎合宿がいよいよ始まる。
米国からは日本時間16日、エンゼルス・大谷翔平選手のキャンプインの模様が伝えられた。今年のキャンプ報道を見ていると、当然ながら日の丸戦士の動向に大きなスペースが割かれている。
だが、その一方で各球団監督の怒声も伝わって来る。
キャンプイン早々に阪神・岡田彰布は連係プレーの練習にご立腹。「去年の秋から取り組んでいるのに、改善が見られない」とばっさり切り捨てると「担当コーチが悪い」と怒りの矛先を指導者に向けた。
巨人の原辰徳は第1クール終了前の4日には調整不足の目立つ山﨑伊織、堀田賢慎の若手両投手に「全力で投げられないような人は(一軍に)いる必要はない」と即二軍落ちを命じている。
昨年の日本一・オリックスでも中嶋聡がキャンプ序盤で、侍ジャパンに大抜擢された宇田川優希投手に「今のままでは(日本代表として)使い物にならない。そういうところに入っている自覚があるのか」と調整遅れに苦言を呈した。
直近では日本ハムの新庄剛志が12日の対楽天練習試合に4失策13失点で大敗すると怒りの取材拒否。翌日になって清宮幸太郎選手の体のキレ不足や万波中正選手のサイン見落としに言及。こちらもコーチ陣の指導不足をなじった。
報道など表面に出て来る怒声の狙いとは…
12球団監督とひとくくりにしても、置かれている立場によって怒声の発し方は違ってくる。
久々に阪神の監督に復帰した岡田監督はチームの意識改革からスタート。前任の矢野燿大監督時代は、選手の勢いを重視した「イケイケ野球」が持ち味だったが、反面失策数は12球団ワーストで、得点機をそつなくモノにする緻密さには欠けていた。こうした反省に立ち、肩の弱い中野拓夢選手を遊撃から二塁にコンバート。内外野を掛け持ちしていた大山悠輔選手を「四番・一塁」に、佐藤輝明選手を「五番・三塁」に固定する方針を打ち出す。今キャンプではOBの赤星憲広氏を臨時コーチに招いて走塁術を強化するなど大改造に着手している。
連続日本一を狙うオリックスの中嶋監督にとっては、気の緩みが最大の敵。昨年、育成契約から一軍の中継ぎ投手として大ブレークした宇田川は実質プロ2年目、甘えは許さない姿勢を見せることによって、さらに飛躍を願う親心が垣間見える。
昨年はBクラスに転落した原巨人と、就任1年目は最下位に終わった新庄ハムにとって、今年は背水のシーズンとなる。
投手陣に不安を抱える原監督にとって、二軍調整を命じた山﨑、堀田共に昨年はプチブレイクした期待の若手。彼らの成長がなければV奪回構想に狂いが生じる。そうした危機感が“怒”につながったのだろう。
新庄監督は持ち前の明るいキャラクターを封印しても「鬼」になる必要に迫られている。今季は新球場エスコン・フィールドに移転。「優勝なんて狙わない」と日替わりオーダーで選手発掘に努めた昨年から一転「優勝しか狙わない」と宣言した手前、厳しさを前面に出している。それぞれの指揮官が、チームの意思統一を図るにはキャンプの時期に徹底するしかない。
こうした表面に出て来る監督の怒声は全体の一部でしかない。ある時はマスコミを使ってわざと報じさせることもある。全軍に刺激を与えるためだ。現実には全体ミーティングの席で叱ったり、個別に呼んで諭すことの方が多い。
かつて、ヤクルト時代の野村克也監督は愛弟子の古田敦也捕手を試合中にもかかわらず、ベンチ内で立たせたまま延々と配球などで説教を繰り返した。本人への叱責もあるが、それを見ている選手たちに緊張感を持たせる意味もあったと言う。監督の一挙手一投足によってチームは変わる。
叱ってばかりでは息が詰まる。褒めてばかりでは甘さが残る。こうしたさじ加減を計算しながら監督の“怒”も発せられる。
まさに喜怒哀楽。指揮官の長い旅路はまだ、始まったばかりだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)