「ちょっと危機感持てと」
タイガースの岡田彰布監督が語気を強めたのは、春季キャンプ第5クール3日目となった20日だった。
「ちょっと言うたんよ。ブルペンの回数とか、球数とか。ちょっと危機感持てと。今だったら、投げられへんぞ、ってな」
厳しい言葉が向けられたのは、競争にさらされている若手ではなく、助っ人として獲得した先発候補のブライアン・ケラーだった。
14日に初めてフリー打撃に登板したが、制球はバラついて球威も不足。振り返れば、キャンプ2日目に初めてブルペン入りも、そこから6日間投球練習は行わず、9日がようやく2度目だった。
調整途上というよりも、明らかに投げ込みが足りていないように指揮官の目には映った。そんな現状を見かねて、投手コーチを通じて“ムチ”を入れさせた。
そして、この日が2度目のフリー打撃登板。ケラーはインタバールを置いて2度マウンドに上がり、前回からほぼ倍の球数を打者に投げた。
首脳陣を納得させるパフォーマンスを見せられるか
「いつでも投げさせてもらえると思ったら、そんな枠ないかもわからんぞ。今の状態見とったらな」
監督が外国人選手をこれほど“煽る”のも珍しいが、今キャンプでの他の先発陣の仕上がりを見ればそれもうなずける。
ローテーションの陣容は青柳晃洋と伊藤将司、西勇輝はほぼ確定。沖縄で序盤から互いを意識して火花を散らしている才木浩人と西純矢の2人も、順調にいけば名を連ねるだろう。
6人制なら残り1枠となるが、そこにも岩貞祐太と大竹耕太郎の左腕が結果を出し合って競争を繰り広げる。見渡してみても、ライバルを圧倒するパフォーマンスを見せるか、誰かのアクシデントなどが起こらない限り、ケラーがローテーションに収まることは現時点では考えにくい。
助っ人でも“優先席”の用意はない──。岡田監督の勝負への厳しさが如実に表れた。
いきなり新天地で面食らうことになったケラーだが、「私的には順調に来ていると思っているし、ゲームも入ってくると思うので、そこでもう少し上がっていければ」と泰然自若。ここまで2度のフリー打撃登板の翌日はいずれもノースロー調整を貫いていることも、米国時代からのルーティンだという。
もちろんケラー自身、開幕を見据えているのは間違いなく、シーズンで貢献することに重きを置いているのだろう。指揮官も「いつかは投げると思うけどな。近い試合でな」と、対外試合でのパフォーマンスに期待を寄せる。
岡田監督の不安が悪い形で的中してしまうのか、それとも“激変”したケラーが先発の一角を担うのか。答え合わせはもう少し先になる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)