白球つれづれ2023~第9回・二刀流ルーキーが打者で存在感を発揮…投手でも実力を示すことができるか
元祖二刀流、大谷翔平選手がいきなり輝いた。
日本時間27日に行われた対ホワイトソックスとのオープン戦で初回から右中間に大三塁打。来月初旬に帰国して侍ジャパンに合流する予定だが、今からWBC本番での活躍が待ち遠しい。
国内では、大谷に次ぐ二刀流ルーキーとして注目される日本ハム・矢澤宏太選手(ドラフト1位、日体大)も噂に違わぬ大物ぶりを発揮している。
26日の対阪神オープン戦に「一番・右翼」で先発出場すると、いきなり西勇輝投手の投じた初球を右越えに第1号アーチをかけるなど3打数2安打1打点の活躍。今月14日から始まった対外6試合で13打数9安打、打率は実に6割9分2厘と猛威を振るっている。これには新庄剛志監督も「(打順を)1番でテストして、いきなり初球(本塁打)。びっくりしました。積極性がいい。チームを乗せる」とご満悦だ。
この試合では阪神の1位ルーキー・森下翔太選手(中大)も広角に3安打。25日にはヤクルトの即戦力・吉村貢司郎投手(東芝)が阪神戦で2回ノーヒット2奪三振の快発進を見せている。才能豊かな将来の侍ジャパン候補生たちが、この先、どんな形で羽ばたいていくのかも見ものである。
大物ルーキーでも、いきなりレギュラーの座を掴むのは難しい。いくつかの条件を列記してみる。
①チームの戦力層が薄く付け入る隙がある。
②プロのスピードやパワーについていける順応性や吸収力がある。
③ライバルたちの成長や故障などの外的要因
④キャンプ、オープン戦の間にどれだけ首脳陣にアピールできるか?
これらの条件をもとに現状で最も近い位置にいるのが矢澤だろう。
昨年、最下位に沈んだ日本ハムは現在、チームの改造中。主砲の近藤健介選手がソフトバンクにFA移籍したこともあり、主力打者もこれから育てる必要がある。
高卒ルーキーの場合はプロのレベルに慣れるのに数年かかるのが一般的だが、大卒や社会人出身で日本代表クラスなら力負けする可能性は低い。
日本ハムの外野陣を見るとレギュラー当確は昨年の首位打者・松本剛選手だけ。しかもキャンプから「一番・中堅」に期待していたスピードスターの五十幡亮太選手がいきなり故障で出遅れている。
これに対外試合での大暴れで、首脳陣のハートをつかみつつある。さらに加えるなら今季から新球場に移転して、一人でも多くのフレッシュなスターを作りたいチーム事情まで考慮すると、矢澤の前途は洋々だ。
気になる「投手・矢澤」の起用法
投打の二刀流として打では満点デビューも投手としては、未知数が現状。23日に行われた対ロッテ戦に中継ぎとしてデビューしたが1回を被安打1も1失点(自責ゼロ)。沖縄キャンプでは1クールに1日だけ投手としての調整を行ってきたが、この先、どれくらいの頻度で「投手・矢澤」の起用が増えて来るのか。それ次第では本物の二刀流が見えて来る。
キャンプの中盤過ぎには、ブルペンで矢澤が投球練習を始めると、右打席に新庄監督、左打席に稲葉篤紀GMが同時に立って「品定め」する異例の光景が見られた。そこでの評判も上々だったことから、意外に早く二刀流デビューが実現するかもしれない。
元祖・大谷が195センチ、100キロ近い巨漢に対して「二代目」は173センチ、71キロと小柄で線も細い。比較するのは気の毒だが、それでも投げて150キロ、打って140メートル弾も記録しているのだから、異能ぶりは証明済み。
おまけにオープン戦1号を振り返ると、二刀流らしい返事が返って来る。
「僕は新人ですし、いきなり直球で入ることはない。僕が投手なら変化球かな、と」。阪神のエース・西勇の心理状態まで推理できるのは投手としての経験が生きている証拠である。
かつては東海大の菅野智之投手(現巨人)を指名して、入団拒否されたこともある。高校卒業後に即メジャーを目指していた大谷を獲得して現在の二刀流の道を切り開いた。「その年のナンバーワン選手を指名する」のが日本ハムのスカウト戦略だ。その中でつかんだ矢澤と言う“金の卵”をどうふ化させるのか?
開幕まで約1カ月。新庄ハムの浮沈のカギを大物ルーキーが握っている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)