ニカラグア野球の歴史
旧スペイン領だった中米諸国の独立後の歴史には、アメリカの政治的、経済的パワーが大きくかかわっている。
1821年にスペイン支配を脱した中米諸国だったが、即座に北の大国、メキシコの支配下に置かれてしまう。真の独立を果たすのは、その2年後、中央アメリカ連邦共和国としてだった。
しかし、この連邦も長くは続かず、1838年にニカラグアは単一の独立共和国として独立を果たした。
しかし、独立後に待っていたのはさらなる分裂だった。
そしてこれに乗じてアメリカ人傭兵隊長、ウィリアム・ウォーカーがこの国の大統領にのし上がった。これ以後、アメリカ資本が流入すると、野球もともにこの国に上陸。
伝えられるところによれば、1888年にカリブ海に面した港町、ブルーフィールズの住民にアルバート・アドレスバーグが野球を手ほどきしたのが最初だという。
アメリカ支配に抵抗する地元勢力もあったが、1930年代半ばにはそれを抑え込んだソモサ一族の支配が始まる。
ソモサ政権は、反対派を一掃する一方で、国民を懐柔するためにアメリカのゲームである野球を利用した。
この「王朝」は1979年に崩壊し、以後、現在に至るまでこの国には度々左派政権が打ち立てられるが、「反米」の国民気質と矛盾するようにソモサ時代に浸透したアメリカ生まれの野球が「ナショナル・パスタイム」として人々の間に受け入れられている。
野球が「国技」だが国際舞台で結果は残せず
この国に、プロリーグが立ち上がったのは、1956年のことである。
サマーリーグとして発足したこのリーグだが、翌年にはMLB傘下のマイナーリーグに組み入れられ、ウィンターリーグ化した。しかし、このリーグは国内の混乱もあり、1967年に休止してしまう。
現在のリーグが、発足したのは2004年の冬のことである。2008年からはコロンビアリーグ優勝チームとの国際チャンピオンシップを開催。
このシリーズは2013年からは、メキシコ、パナマを加えた国際シリーズ、「ラテンアメリカンシリーズ」に発展した。
以後7年にわたって行われたこのシリーズで、ニカラグアは2016年以降4連覇を飾っている。
野球が「国技」とされるこの国から初めてメジャーリーグでプレーしたのが、通算245勝を挙げたデニス・マルチネスだ。
1974年にボルチモア・オリオールズと契約し、A級マイアミでアメリカでの第一歩を記したマルチネスは、2年後にはメジャーデビューを飾り、以後23シーズンの長きにわたってメジャーのマウンドに立ち続けた。
1984年秋にオリオールズの一員として来日も果たした彼は、モントリオール・エクスポズ時代の1991年にはその野球人生のハイライトである完全試合を成し遂げている。
日本球界に身を投じた選手も少ないながら存在し、1986年にはデビット・グリーンが近鉄に、2013年にはビセンテ・パディージャがソフトバンクに入団している。
中米きっての野球国であるニカラグアだが、国際舞台ではあまりその名を見かけることはない。
五輪の舞台には、公開競技として行われた1984年ロサンゼルス大会と正式競技となった1996年アトランタ大会に出場しているが、ロサンゼルスでは日本と同組となった青組4チーム中3位で予選リーグ敗退、アトランタでは8チーム中4位で惜しくもメダルを逃している。
WBCには、2012年に行われた第3回大会予選で初出場を飾るも、この時は1勝も挙げることなく敗退している。続く2016年実施の第4回大会予選では、ドイツ、チェコといった欧州勢を退けたものの、「中米の雄」、メキシコに2度にわたって大敗を喫し本選出場は夢に終わった。
プルペン陣以外は「マイナー下位レベル」
本選初出場となった今大会だが、メンバーは国内リーグの選手中心で力不足は否めない。
その中で、昨季ヤンキースで50試合に登板したJ.ロアイシガが前回大会予選に続いて出場。
同じくナショナルズのセットアッパーとして60試合に登板し、4勝を記録したE.ラミレスらに期待がかかるのだが、先発の軸と目されるこの冬の国内リーグで8勝を挙げ、2シーズン連続で最多勝投手となったR.メドラーノ(リバス)でさえ、カージナルスではルーキークラス止まりだったことを考えると、せっかくブルペンにメジャーリーガーを置いても宝の持ち腐れになりかねない。
ブルペンは、この冬はベネズエラでもプレーした元ヤンキースのマイナーリーガーJ.アクーニャ(レオン)らに任せて、メジャーリーガーをオープナーとして起用する手もありかもしれない。
攻撃陣も、今季の国内リーグで3割をマークしたB.アレグリア(レオン)や昨季アメリカ独立リーグのフロンティアリーグで3割をマークしたI.ベナード(リバス)がいるが、彼らもマイナーではルーキー級止まり。多くを望むことはできないだろう。
ニカラグア野球の当面の目標は、中南米カリブ地域各リーグのチャンピオンが集うカリビアンシリーズ出場だ。
2019年まで出場していたラテンアメリカンシリーズは、いわば「マイナークラス」の国際シリーズ。
それも、そこでしのぎを削っていたパナマは2019年からコロンビアは2020年からこのウィンターリーグ最強クラブ決定戦に参加し、ラテンアメリカンシリーズは事実上消滅してしまった。この遅れを挽回するためには今大会での躍進が不可欠である。
ニカラグアはマイアミで行われるプールDで第1次ラウンドを争う。
このプールは、ドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラという「カリビアンシリーズ」組に近年国際舞台に突如として現れたイスラエルが居並ぶ「魔の組」だ。
第2ラウンド進出は難しいだろうが、「カリビアンシリーズ組」からひとつでも星を取って爪痕を残したい。
文=阿佐智(あさ・さとし)
メンバー
<投手>
12 C.ロドリゲス
14 R.セオフィル
30 F.フローレス
34 K.ガデア
36 R.メドラーノ
37 C.テラー
41 O.グティエレス
43 J.ロアイシガ
55 R.ラウデス
61 E.ラミレス
62 D.ヘバート
66 J.C.ラミレス
72 L.クロフォード
77 J.テレズ
79 J.アクーニャ
<捕手>
22 R.ボーン
27 M.ノボア
<内野手>
1 B.アレグリア
5 S.レイトン
8 I.マリン
10 A.ブランディーノ
17 M.ペレス
24 C.カスバート
28 E.ミランダ
38 W.バスケス
99 J.モンテス
<外野手>
3 D.ブリットン
9 S.ベルムデス
19 N.バレ
44 I.ベナード