「4番・ゴジラ」のプランは……

　3月8日に開幕した第5回ワールド・ベースボール・クラシック（WBC）。9日に控える侍ジャパンの初戦を前に、過去4回の大会で話題になった出来事を振り返ってみたい。

　今回は日本代表の主力候補と期待されながら、さまざまな事情で幻の代表で終わった選手や、1度は代表に選ばれながらケガなどの理由から出場辞退した選手たちを振り返ってみよう。


　2006年の第1回大会で日本代表チームの4番と期待されながら、苦渋の辞退となったのがヤンキース時代の松井秀喜だ。

　大会開幕3カ月前の2005年12月初め、王貞治監督から「日本球界の将来も考えて、一緒にやってほしい」と正式に出場を要請された松井は、「出場してくれたらうれしいという話を頂いて、現時点では返事できなかったが、これから考えたいと思う」と慎重な受け答えに終始した。

　だが、王監督が12月8日に「4番・松井」の打順構想を発表すると、松井は「まだ決めてないのに入れちゃうの？」と当惑。その後、出演したラジオ番組の中で、シーズン開幕前の3月に体調をベストに持っていくことの大変さなどを理由に「（出場は）難しい」と消極的な姿勢を見せた。

“非国民”とバッシングも

　2006年はヤンキースと4年総額5200万ドル（当時のレートで約61億8800万円）で契約を延長した初年度であり、「ヤンキースでキャンプをじっくりやりたい」気持ちが強かったといわれる。

　そして、1カ月近く悩んだ末の12月26日、「今回は大変心苦しいのですが、代表入りを見送らせていただきたいという結論に達しました」と辞退を発表。王監督宛てに便箋15枚の手紙を書くなど、礼を尽くしての辞退だったが、ファンの期待が大きかっただけに、“非国民”などとバッシングを受けた。


　2009年の第2回大会では、34歳と年齢的にも最後のチャンスとあって、当初は「できることなら出場したい」と前向きに検討していたが、2008年9月に左膝を手術してリハビリ中だったことに加え、ヤンキースが出場許可を出さない方針を明らかにしたことから、11月25日に「ただただ申し訳ない気持ちで一杯です」と再び辞退を発表した。

　結果的に日本代表チームは松井不在で2連覇を達成したが、「1番・イチロー、4番・松井の豪華オーダーを見たかった」と今でも残念がるファンも多い。

黒田博樹も2大会連続で辞退

　第1回大会で一度はメンバー入りしながら、開幕直前に無念の辞退となったのが、広島エース時代の黒田博樹だ。

　2006年2月24日、12球団選抜チーム相手の壮行試合で8回からリリーフした黒田は、ソフトバンク・大村直之を投ゴロに打ち取った際に、打球を右手に受け、大事をとって降板した。

　福岡市内の病院で検査を受けた結果、骨には異常がなかったが、右手人差し指内側打撲で1週間のキャッチボール禁止と診断された。

　1週間後の3月3日に第1ラウンドが開幕することから、翌25日に黒田は「チームに迷惑をかける。こういう結果になって残念」と辞退を申し出た。


　ドジャース時代の2009年・第2回大会でも、黒田は原ジャパンの第1次候補34人に選ばれ、“第4の先発”として出場に意欲を燃やしていたが、メジャー1年目の前年6月に右肩痛で故障者リスト入りした影響などから、12月19日、調整が間に合わないことを理由に、2大会連続の辞退を発表した。

　さらに、ヤンキース時代の2013年・第3回大会も、「今季の登板数、投球回数や年齢（37歳）のことも含めて、3月に体調をMAXに持っていくことは難しかった」として辞退。めぐり合わせの不運もあり、最後までWBCとは縁がなかった。

大谷翔平も前回大会は右足首の怪我で辞退

　今回初めて代表入りし、投打の中心と期待される大谷翔平（エンゼルス）も、日本ハム時代の2017年・第4回大会では、前年の日本シリーズと侍ジャパン強化試合で痛めた右足首の回復が思わしくないことを理由に辞退している。

　前年の侍ジャパン強化試合に出場した大谷は、11月13日のオランダ戦で東京ドームの天井に消える推定飛距離160メートルの特大弾（特別ルールで二塁打）を放つなど、日本人離れしたパワーを見せつけ、WBCでは投打二刀流の活躍が期待されていた。

　だが、年明け後も右足首の回復が長引き、キャンプイン直前になってもブルペン入りの目処すら立たないことから、2月1日、日本ハム・栗山英樹監督と相談したうえで「3月7日（初戦のキューバ戦）に100%でいける自信がない」と、投手としての出場を断念した。

　「今は少しでもいい方向に進むようにやっていきたい」と打者一本で結果を出すことを誓った大谷だったが、ここから話は急展開を見せる。

　同3日、侍ジャパンの小久保裕紀監督が米国でキャンプ中の大谷と電話で連絡を取り、「右足首の状態が思ったよりも良くなってこない」という報告を受けたうえで、「100パーセント万全でない選手を預かるリスクもある」として、28人の選手枠から外したのだ。これによって野手としての出場もなくなり、大谷不在のチームも、2大会連続の準決勝敗退と結果を出せずに終わった。


　あれから6年。今大会で初めて侍ジャパンの一員になった大谷は「勝つことだけを考えていきたいなと思っているので。前回は出られなかったですし、自身としても初めてのWBC。楽しみにしながら頑張りたいと思います」と、3大会ぶりの世界一奪回に意欲を燃やしている。

　メジャーで揉まれ、スケールアップを果たして帰ってきた二刀流の怪物は、9日のチーム初戦・中国戦に先発予定。一体どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、今から楽しみだ。


文＝久保田龍雄（くぼた・たつお）