白球つれづれ2023~第11回・ルーキーたち“春の期末テスト”生き残りを賭けた結果は?
プロ野球の開幕が近づいてきた。
オープン戦たけなわのこの時期は、一軍の戦力として使えるか? 見極めの重要な時期。中でもルーキーたちにとっては生き残りを賭けたサバイバルゲームの正念場だ。そこで“春の期末テスト”の現状をチェックしてみたい。
ドラフト1位の“即戦力三羽烏”として名前が挙がるのは吉村貢司郎(ヤクルト)、矢澤宏太(日本ハム)、森下翔太(阪神)の各選手。いずれも社会人、大学出身者である。
投手で期待に違わぬ大物ぶりを見せているのが吉村だ。
12日に行われた広島戦に先発すると4回を被安打1、4奪三振の力投で無失点。ここまでオープン戦3試合に登板して9回無失点、打たれたヒットもわずかに3本と抜群の安定感を見せている。
最速153キロのストレートに140キロ台のフォークボールを操るだけでなく、スライダー、カットボール、カーブなど多彩な球種で打者を手玉に取る。
「カウントも有利に作れて、不利になってもいろんな球種でストライクが取れる」と高津臣吾監督の評価は二重丸。
ヤクルトの先発投手候補を見ていくと、小川泰弘、石川雅規、高橋奎二にサイスニードまでは名前が挙がるが5人目以降は心もとない。本来なら将来のエース格である奥川恭伸の復帰が待たれるが、右肘痛の影響で今季も出遅れが必至。高橋もWBC選出により、開幕カード(広島戦)から先発できるかは不透明だ。
そんなチーム事情を重ね合わせると、吉村の大抜擢は十分にあり得る。
投手と野手の二刀流で話題を集める矢澤は、打者としてまず頭角を現している。
12日のオリックス戦では「一番・指名打者」として出場すると6回に右適時打を放ち、逆転勝ちに貢献。中でも新庄剛志監督がご満悦なのは矢澤と五十幡亮太で組む新一、二番コンビの誕生だ。勝負強い矢澤と球界屈指の俊足・五十幡が揃うと攻撃のバリエーションが増える。投手としては13日現在1イニングしか投げていないので(無失点)未知数としか言いようがないものの、打者としては21打数8安打の打率.381を記録、1本塁打も放っている。新球場移転のニュースターとして期待は大きい。
三人目は阪神・岡田彰布新監督の秘蔵っ子と言っても過言ではない森下である。中大時代には1年春からベンチ入りした大型の長距離砲。キャンプこそ右太もも裏の肉離れで出遅れたが、復帰後は順調な回復ぶりで、オープン戦では中軸を任される場面も多く、打率は3割。将来的には佐藤輝明、大山悠輔両選手と和製クリーアップ形成が期待されている。辛口の岡田監督が森下に限っては、褒めるケースが目につく。外国人の出来次第では開幕から先発起用も十分にあり得る。
ドラ6ながらキャンプで評価を高めた中日の田中幹也
ドラ1組を除いた掘り出し物のルーキーを探すと、現時点では文句なしに中日・田中幹也選手の名が挙がる。
166センチの小兵に加え、亜大時代には潰瘍性大腸炎で大腸を全摘出。こんな難病もあってドラフト6位指名に甘んじたが、俊足、好守、巧打で猛アピール。こちらも12日のDeNA戦で3安打の固め打ち。打率を.364として、目下、オープン戦の首位打者に躍り出た。
キャンプではドラフト2位の村松開人選手(明大)と二塁手の座を競う形になったが、ライバルを一歩リード。すると、遊撃のレギュラー候補だった龍空選手が不振で二軍落ち。現在は二塁と遊撃を掛け持ちで守っている。立浪和義監督は「基本は二塁で使う」とレギュラー扱いを言明。昨オフには阿部寿樹選手を楽天に、京田陽太選手をDeNAにトレードして手薄な内野陣にあって、もはや欠かせない存在になりつつある。
昨年のドラフトでは69選手が指名され、育成契約として過去最多の57選手も指名を受けた。各球団の方針もあり、即戦力に重きを置くチームもあれば、将来性を重視して高卒中心の補強をするチームもある。
2月1日のキャンプインから40日あまり。ルーキーたちにとって“春の期末テスト”はまだ終わったわけではない。ドラ1組だけを見ても、西武・蛭間拓哉選手や楽天・荘司康誠投手ら当落線上の選手もいる。
上記4人がレギュラー濃厚な「特Aクラス」としたら、次に続くのはどのルーキーたちなのか?
将来のWBC出場を目指す若き侍たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)