侍ジャパンとの対戦で得たもの
感じた手応えは、瞬く間に悔しさへと変わっていた。
タイガースの才木浩人は、登板後のロッカールームで身をよじらせて感情を露わにしていた。
6日の侍ジャパンとの強化試合、先発マウンドに立ち4回4失点。ハイライトは一度ではなかった。
初回二死で対峙したのは大谷翔平。言うまでもなく、初対戦の最強スラッガーを相手に“力試し”に打って出た。
初球から4球連続でストレートを投げ込み、最後は真ん中高めの154キロで空振り三振。「真っすぐで空振り、ファウルとか結構とれていたので良かったかなと。そこはすごく自信になったというか、自分も通用するなと自信になりました」と自慢のストレートでねじ伏せたことに意味を見出した。
それでも、6年目・24歳の心が激しく揺さぶられたのはその後だった。
3回二死三塁からラーズ・ヌートバーに中前適時打を許して1点を失い、さらにピンチを広げて二死一・二塁で大谷との2度目の対戦を迎える。
1打席目とは違って初球はフォークから入り、ストレート2球で追い込んだ。ウイニングショットに選んだフォークで体勢を崩したが、大谷は左膝をつきながらコンタクト。不格好なスイングとは裏腹に、打球はバックスクリーン右の2階席に飛び込んだ。
「大谷さんに打たれて悔しかった」
世界基準のパワーをみせつけられた1球。「最後フォークが良いところに落ちたのに、あれをホームランにしてしまうのはあらためてすごいなと感じました」と脱帽するしかなかったが、次代のエースとして期待される逸材は言葉を続けた。
「僕の中でのベストボールがああやって片手でバックスクリーン横に運ばれたというのはすごく悔しいので、単に“レベルが違う”の一言であまり片付けたくないというか。ああいうレベルのバッターを抑えられるくらい、自分も成長していきたいというのは改めて強く思いました」
体感したレベルを「すごかった」だけでは終わらせない。才木は、すぐに動き出した。
翌日から、被弾したフォークの改良に着手。以前から曲がり幅などに手を加える考えがあったというが、大谷に浴びた一発がひとつのきっかけになったことは間違いない。
「自分の中では理想のボールを投げている」という同僚のジェレミー・ビーズリーとも意見交換し、ボールを挟む指の間隔を狭めるなど微調整。すぐさま12日のジャイアンツ戦で“新球”を試した。
2回、先頭で対峙した丸佳浩を3球三振に仕留めたのは139キロのフォーク。大谷に仕留められた136キロから球速は3キロアップしていた。
「スライダー気味に落ちていたのを、球速を上げてスプリット気味にしました。大谷さんに打たれて悔しかった。対戦できたことをプラスにしたかった」
高速で鋭角に落ちる進化したウイニングショットも武器に、この日も3回無失点と有力視される4月2日の開幕3戦目へ順調にステップを踏む。
実力差を痛感しながらも、立ち止まることなくわずか5日間で持ち球をブラッシュアップした背番号35。大谷翔平からの“贈りもの”は、ローテーション投手としてシーズン完走を目指す若武者の大きな助けとなるはずだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)