白球つれづれ2023~第12回・WBC開催で開幕ローテに明暗…もっとも影響を受けたチームは?
“昭和の怪物”江川卓流に言うなら、「たかが開幕、されど開幕」といったところか。
WBCの熱狂の裏で、NPBの開幕があと10日あまりに迫ってきた。
例年なら、栄えある開幕投手が続々と決まり、本番ムードがいよいよ高まってくる時期だが、今年は少し様相が違う。
20日現在、開幕投手を公表しているのは9球団で、未発表がヤクルト、巨人、オリックスの3球団。
チームによってはエース級をWBCに派遣しているため、代替候補に四苦八苦するケースもあれば、エースが残ったチームは通常通りのローテーションで開幕を迎えられる。
前年度日本一のオリックスに至っては山本由伸、宮城大弥、宇田川優希投手に加え、途中から山﨑颯一郎投手まで緊急招集されてチーム本体を離れている。それでも山岡泰輔、田嶋大樹ら実績のある準エース格が残っているから、やりくりはつけられそうだ。
そんな中で、最も開幕に向けて黄信号が灯っているのが原巨人だろう。
戸郷翔征投手がWBCの侍ジャパンに選出されても、大黒柱の菅野智之投手がいれば大丈夫なはずだった。その菅野が18日の日本ハムオープン戦でわずか1イニングの緊急降板。右肘の張りを訴えたものだが、球団歴代最多の6年連続9度目の大役が確実視されていた大黒柱が出遅れるようだと、盤石な先発ローテーションは、とても組めそうにない。
原辰徳監督が「頭が痛い」と本音を明かせば、阿波野秀幸 投手チーフコーチも「(この先)どのような順番で行くのかは、ちょっと待ってもらいたい」と緊急事態であることを隠せない。
昨年68勝72敗3分けでBクラスに転落した原巨人。投手陣の勝利数5傑を上げていくと、勝ち頭の戸郷が12勝で、菅野が10勝。3位以降はCC・メルセデス、山﨑伊織、赤星優志各投手が5勝止まりで続く。このうちメルセデスはロッテに移籍、山﨑はキャンプで出遅れてファームで調整中だから、先発要員の6人程度を上げるのも現状では難しい。
そこで、急遽、開幕投手に浮上してきたのは新外国人のフォスター・グリフィンである。19日の日本ハム戦に先発すると5回を3安打1失点(自責ゼロ)と安定した内容で首脳陣も安堵したが、来日したばかりの助っ人にすべてを託すのは危なっかしい。結局は戸郷の帰国と菅野の復帰を待つしかないが、開幕ダッシュは打線の強力援護が無ければ難しくなった。
WBC“燃え尽き症候群”の懸念も…
同様な悩みはDeNAや広島にも見て取れる。
DeNAでは昨年11勝をマークして、今永昇太投手と共に両輪を形成した大貫晋一投手が右肩肉離れで長期離脱まで危惧される。
広島では守護神・栗林良吏投手が侍ジャパン帯同中に腰椎椎間板症で戦列離脱。さらに本来なら日本代表に選ばれてもおかしくないエースの森下暢仁投手が昨年からの右肘痛で出遅れている。逆にエース級がそのままチームに残った阪神、中日、西武などは例年通りのローテーションが組めそうだ。
WBC組の帰国は今月24日あたりに予想される。開幕までは1週間近くあるが、激闘と長旅の疲労を考慮すれば、投手の場合は開幕カードを外して、次節から本格復帰のケースが多いだろう。
過去のWBC出場選手の中には「大舞台の疲れもあって、なかなか本調子に戻すには苦労した」と“燃え尽き症候群”を口にする者もいた。使用球の違いで苦しんだ投手は、もう一度感覚を元に戻す作業も必要になる。ロッテのように吉井理人監督(侍ジャパンでは投手コーチ)から、今や世界も注目する大エース候補の佐々木朗希投手まで抜けたチームもある。
たかが143試合の長丁場にあって1試合ではある。されど、チームが勢いづいてスタートダッシュにつながるのも開幕戦である。
WBC余波も収まりきれない中で始まる23年のプレーボール。例年以上の波乱を予感させる球春本番がまもなくやって来る。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)