野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第22回:実況パワフルメジャーリーグ2009
「夢をつかんだ日本人選手達がいる」
これは1998年10月8日発売、『実況アメリカンベースボール2』のパッケージに書かれたキャッチコピーである。
パワプロで知られるコナミが、プレイステーションで展開した実況シリーズの大リーグ版。パッケージでは「日本では味わえない感動と興奮」と強気に煽り、この年のシーズン中にドジャースからメッツへ移籍した野茂英雄ももちろん登場している。
ゲームでは750人以上の選手を収録しているが、コナミらしいのがパワプロと同じく「シナリオモード」もあることだ。
例えば、ヤンキースの伊良部秀輝の「KAMIKAZE!」と題されたシナリオ紹介はやたらと力が入っている。
「伊良部の神投は神風の襲来か?アナハイムを完全に封じ込めてきた彼に、敢然と立ち向かうはティム・サーモン。ゆけ伊良部!今こそ日本男児の魂でアメリカを震撼させよ!」
いったい何がどうなったんだ広岡達朗から説教でも食らったのか?と思わず心配になる切羽詰まったテンションだが、当時はまだ野手の日本人メジャーリーガーは誕生しておらず、大リーグが今よりだいぶ遠かった時代──。
ほぼ同時期の98年11月12日には、プレステの『メジャーリーグベースボール トリプルプレイ99』(エレクトロニック・アーツ・スクウェア)が発売されたが、日本の野球ファンにとってMLBのゲームはまだ馴染みが薄く、そういえば自分も同日発売の『ワールドサッカー実況ウイニングイレブン3 ファイナルヴァージョン』(コナミ)を買って友達と対戦しまくった記憶がある。その後、世の中もゲーム業界も日韓ワールドカップへ向けて、未曾有のサッカーバブルへと突入していくことになるわけだ。
MLBゲーム冬の時代の救世主
さて、MLBゲームが日本市場で話題になるのは、2003年のことである。
01年にイチロー、03年に松井秀喜という平成の野手二大スターが海を渡り、6月5日に『MVPベースボール 2003』(エレクトロニック・アーツ)、6月19日にはゴジラ松井がメインビジュアルを務めた『MLB 2003』(ソニー)と大リーグを舞台にした野球ゲームが日本でも立て続けに発売された。
特に『MVPベースボール』は圧倒的なデータ量で、メジャー選手約1100名と実在スタジアム30を完全再現。個人的にはこのゲームと、のちにアーケードで稼働したカードゲーム『SEGA CARD-GEN MLB』にハマりメジャーの選手を覚えたが、周囲にパワプロやウイイレをやっている人はいても、「MVPベースボールのオープニングムービーで流れるリンプビズキット風の音楽(ジ・エクシーズの“Without”)良いよね」なんて共感してくれるヘビーユーザーは誰もいなかった。
日本語表記で10年以上に渡りチーム運営できる「フランチャイズモード」がウリだったが、全体的に試合中の操作はシンプルで(現在の『MLB The Show』シリーズ以上に)、日本の細部まで作り込まれた野球ゲームに慣れたユーザーの評価は微妙だった。
出してくれるのはありがたいけど、なんかコレじゃない感。そんなMLBゲーム冬の時代を救ったのが、林家ペーやダンカンを解説陣に迎えた伝説の迷作『日米間プロ野球』……のはずがなく、お馴染みのパワプロシリーズである。
06年5月11日にプレステ2やニンテンドーゲームキューブで『実況パワフルメジャーリーグ』を発売。一部の選手をのぞいて実名収録、アメリカ独立リーグからメジャーリーガーを目指すサクセスモードまで実現させてみせた。
その年オフの松坂大輔のレッドソックス移籍でメジャーへの注目度もさらに高まり、パワメジャシリーズはその後、毎年リリースされるようになる。
今こそ復活に期待…?
ユーザーは、いつも日本のプロ野球をベースに遊んでいるお馴染みのパワプロのフォーマットだからこそ、そこで展開されるメジャーリーガーのパワーやスピードをリアルに実感できた。その集大成が09年4月29日発売『実況パワフルメジャーリーグ2009』である。
この時代は、やっぱりイチローと城島健司が在籍していたシアトル・マリナーズで遊びたいと思ったら、2番J・ロペスって巨人とDeNAで活躍したエルチャモだよ!ラヘア……ってのちにソフトバンクに来たブライアン・ラヘアか!いやいや投手のメッセンジャー……日本で花開くラーメン大好きメッセじゃねえか!なんて止まらないベースボールノスタルジア。
09年、世界一に輝くヤンキース打線で、アレックス・ロドリゲスやマーク・テシェイラとともにクリーンアップを打つ松井秀喜の存在が誇らしく、その最強打線と対峙する平成の怪物・松坂もまたエモい。
ひとりのメジャーリーガーの野球人生を体験できる「メジャーライフ」には、城島効果で投手をリードできるキャッチャーモードも追加。先日あれだけ盛り上がったWBCモードの搭載も嬉しい。
さらに今作からエディットモードが搭載されており、各モードで遊びながらパワメジャポイントを貯めてゲーム内ショップで「選手エディット券」を購入すると、選手の能力を好きに調整できるので、毎年最新データを自分で反映させ長く遊ぶことが可能に。打撃や投球フォームは500種以上、ユニフォームも140種以上と謎の力の入れようで、まさにパッケージ裏面の文言通り「パワフル度、ワールド級」である。
恐らく、多くのユーザーは最初にパワメジャポイントを手っ取り早く貯めるために、ホームラン競争モードでしばらく練習がてらプレイしたと思うが、この際に本塁打が出やすい球場をあれこれ試すうちに、MLBの本拠地を片っ端から覚えていった人も少なくないはずだ。
パワプロシリーズのNPB球場と同じく、全スタジアムが細部まで再現されているので、ガチのメジャー球場ガイド的な役割を果たしてくれる。
元巨人のスコット・マシソンは、同僚外国人に地下鉄の乗り方や日本球界のルールをレクチャーして“センセイ”と親しまれたが、パワプロメジャー版はまさに俺らの大リーグのティーチャーだったのだ。
ありがとう、パワメジャ2009。本作は爆発的ヒットこそしなかったが、そのエディットの自由度の高さから長くファンに愛された。
っていうか、WBCの大谷翔平やヌートバーで日本中があれだけ盛り上がりMLBへの注目度が上がっている今こそ、あらゆる権利関係をクリアして、14年ぶりの『実況パワフルメジャーリーグ』シリーズの復活はいかがでしょうか、コナミさん。
もちろん、二刀流のヘルメット脱ぎ捨て激走から、アロザレーナの腕組みパフォーマンスも完全再現で。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)