今季初登板の後に感じた“異変”
竜の絶対エースが、メスを入れざるを得ない状況に追い込まれた。中日・大野雄大投手が4月中旬、左肘の遊離軟骨除去(クリーニング)手術を受けた。
昨季まで4年連続で規定投球回を投げ、かつ防御率2点台以下をマークしたタフネス左腕。復帰時期は8月を見込んでいる。
エースが戻ってきたとき、チームはどうなっているのか。熱い夏場が待ち望まれる。
入団以降の12年間で投球イニングを8度規定投球回に乗せ、2020年には20試合登板で10完投(うち6完封)を記録。堂々の沢村賞に輝いた。
翌21年には東京五輪の野球日本代表として金メダル獲得にも貢献。チームメートの信頼厚く、押しも押されもせぬエースの地位を築き、援護の有無にかかわらず黙って投げ続けてきた。
異変が起こったのは、今季初登板となった4月4日のヤクルト戦(バンテリン)の後。7イニングを3安打1失点(自責0)にまとめ、2度目のマウンドに向けて調整していた時だった。
肘がロックして腫れた。伸びたまま、曲げ伸ばしもきない。その時、登板の2日前。1日前倒しする柳に「すまん」と連絡した。
エースの戻る時期に、輝ける場所をつくれるか
肘の状態は一進一退だった。実は、10年近く前から遊離軟骨と付き合ってきた。
負担がかかれば、骨棘(こっきょく)となり折れる。肘の中で邪魔しなければ、そのままマウンドへ上がることができる。数が増え、大きさもまちまち。「トレーナーの方々のおかげで投げられていました」というのはこれまでの話だった。
中6日にこだわらず、登板間隔を空ければ投げ続けられたのかもしれない。ただ、それだってどうなるか分からない。
いたずらで済んでいた状況から一変。8年付き合って、「できればやりたくなかった。メスを入れずにプレーできるのであれば、その方がよかった」という、これまでとは異なる肘になった。
オフに手術する可能性もあったが、慎重に向き合い、これからを考えた上で、手術に踏み切った。決めたら早い。すぐに段取りを終えて、病院を決め、手術歴のある小笠原らに連絡し、術後のケアや復帰までの道のりを把握した。
「毎年、1年しっかり投げることを目標にしています。規定投げて、ローテーションを守る。それができなくなりました。夏くらいに復帰して、最後の2カ月くらいで戻れれば、チームを押し上げることができるかな、と思います。チームが良い状態で上位争いをしてくれていることを願って、そこに向けて。大事な夏場の勝負所で仕事できるように、と今は思っています」
思えば2020年オフ、国内FA権を行使せずに残留した。地元球団の阪神をはじめ、調査に動きだした球団もあった。
宣言すれば、争奪戦になっただろう。移籍すれば、手にできる年俸は億単位で変わったに違いない。でも、大野雄大はチームに残った。
シーズンは始まったばかり。開幕から低迷しているとはいえ、今の竜の順位はいくらだって変えられる。
エースの戻る時期に、輝ける場所をつくっておくことも、戦っているメンバーに期待される。全員で、2012年以来、11年ぶりのポストシーズン進出を決めたい。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)