野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第23回:プロ野球チームをつくろう!2003
「iモードでも!ファイナルファンタジー」 「デジキューブの書籍でX-2をもっと楽しもう!」「倖田來未NEW DVD(ビデオクリップ集)3月19日発売予定」
これらは2003(平成15)年3月13日発売『ファイナルファンタジーX-2』(スクウェア)の説明書や封入チラシに書かれた懐かしい文言の数々である。
着メロには本作のテーマソングを歌う倖田來未……ってコウダ? スローカーブの? というわけで香田勲男もOBスタッフとして登場する『プロ野球チームをつくろう!2003』がリリースされたのは、同年の11月20日のことだ。
パッケージに堂々と書かれているように「球団経営・選手育成シミュレーションの大本命が、新要素・最新データでさらに進化する!」人気シリーズのプレイステーション2版。03年春発売の前作から約7か月後にリリースされた本作だが、個人的に思い入れのある一本だ。
その直後に就職したため、チームの日本一達成直前に時間と余裕がなくなりやめてしまった。人は誰もが、人生において“ゲームどころじゃない時期”というものがある。
普通に野球ゲームができる日常に感謝……ってしかし、ガチで難しい。『やきゅつく2003』を久々に遊び始めてすぐ、20年前のゲームはこんなに難易度が高かったのかと驚かされる。
「秘書セレクトはギャル系の綾瀬ゆうりと迷いつつ、ミシェル・テイラーをご指名かな」とかやってる場合じゃない。当時、読み込んだ攻略本の内容もほとんど覚えていないので、すべてが手探りだ(あえて攻略サイトのたぐいも見ずにプレイ)。
まず、ベースチームは懐かしの近鉄バファローズを選択。史実では翌年に起きる球界再編騒動に先手を打って、本拠地を大阪から新潟市へ移転。「新潟近鉄バファローズ」として新たなスタートを切る。
新チームには知名度と華やかさが必要なので、中畑清監督にブライアント打撃コーチ、ガルベス投手コーチ、二軍監督には定岡正二と日テレのバラエティ番組のような組閣。だが、ここで首脳陣の人件費に予算を使いすぎたと気付くのは少しあとのことである。
限られた予算で地道に球団経営する難しさ
ただでさえシビアな予算設定で主力全員と契約できるわけがなく、年俸3億6000万円のタフィ・ローズをギリ残留させる一方で、泣く泣く年俸5億円の中村紀洋を放出。すると、ナイフみたいに尖った当時のノリさんは「敵に回したことを後悔しないでくださいね」なんつって捨て台詞を残してオリックスへ去っていった。
違うんだ、中村紀洋というブランドを決して軽くみたわけじゃないんだ……と謎のエクスキューズをかましながらチーム編成。クリーンナップは大村直之、ローズ、北川博敏とそれなりに形になったが、春先から層の薄い投手陣に故障者が続出してしまう。
1年目シーズンは開幕3連敗スタートで、“ダイハード打線”が猛威をふるうダイエーに25失点。4月を6勝18敗でいきなり最下位に沈むと、岩隈久志と前川勝彦の左右エースが立て続けに故障離脱した5月は、初期パック選手の若手投手・小野寺登が往年の権藤博のように“小野寺・小野寺・雨・小野寺”と投げまくるもボコボコに打たれて月間3勝21敗と最下位を独走。こうなると、現場がとりあえず手っ取り早く即戦力の助っ人選手を緊急補強したくなる心境がよく分かる。
総額1億円以上を投資しての新外国人投手のラウロ獲得や、西武からの謎の同情トレード申込でなぜか西口文也を譲ってもらった6月だったが、16連敗含む1勝23敗で撃沈。年間100敗超えで首位ダイエーと51.5ゲーム差の惨敗も、定岡二軍監督の定期報告は爽やかスマイルで毎回「特に注目選手はいません」を繰り返すのみ……って、ゲームオーバー条件「5年以内に日本一になること」のハードルの高さを痛感する。
とにかく、1年目は勝敗度外視で若手育成のチーム作りや医療設備や球場への投資。さらに海外にも投資して野球留学コネクションを確立する作業に没頭。地味だ。だがこのリアルさこそ本作が人気の理由でもあった。
FAで功労者を見送る球団フロントの気持ち
しかし、駐車場やホテルに投資するサイドビジネスに燃えすぎて気が付けば資金がショートしかかり、1年目オフの逆指名ドラフトや、FA市場のマネーゲームにはほとんど参戦できず。年明けにはオープン戦ホーム主催ゲームを連発してなんとかやりくりする自転車操業。地方都市での球団経営はツライよと嘆きつつ、車イベントに球場を貸し出し5000万円の臨時収入にマジ感謝だ。
2年目も相変わらずの最下位が定位置だったが、大村直之が3番打者に定着。ヤクルトから格安で獲得した高津臣吾が、“ガルベス再生工場”で抑えとして復活する嬉しい誤算もあり、5位とのゲーム差も一桁台をキープ。阪神から藪恵壹、桧山進次郎のベテラン陣と二遊間を守れる高須洋介の交換トレード申込があり受諾した。
8月には初の同一カード3連勝とようやく戦うベースができ始めたと思った矢先、事件が起きる。オフに看板選手のタフィ・ローズがFA宣言をしたのである。36歳で年俸3億5000万円。他を犠牲にすれば引き留められないことはない。ただ、世代交代にはベストのタイミングかもしれない。個人的な好き嫌いじゃチーム作りはできないのである。
そこで、ふと思った。実際にFA選手を抱えた球団フロントもこんな心境なのではないかと。そりゃあ功労者には残ってもらいたい。だが、資金には限界があり、現実との落としどころを模索しなければならないのだ。
主砲を失った3年目は開幕序盤に怒涛の18連敗を喫して5月には終戦。「見限ルノガ早過ギマスヨ」と愚痴られつつ8連敗のラウロ投手を解雇。「選手に愛を感じていますか?」なんて往年のタツノリみたいな不満を球団社長に訴える桧山もトレードで広島へ放出した(見返りとして福地寿樹を獲得)。
誰がどう見ても世代交代を迫られたチームの過渡期だ。ローズに代わる新たな大砲育成が急務で、攻守の大黒柱・大村も近い将来にFA宣言するかもしれない。数々の課題を抱えながら、明日も試合がやってくる。
強化指定の若手野手を数名スタメンで起用しつつ、頼みは中軸を任せる新外国人のデルガドとクレインに、他球団を自由契約になり声を掛けたベテラン組の野村謙二郎や田中幸雄。って今の原巨人かよ……じゃなくて、えてしてチームの過渡期とはこういうものなのである。
3年目終了後、連続最下位の責任を取り、ついに中畑監督らスター組閣も解散。予算を大幅に削り、年俸1500万円の格安監督・石原修と無名のコーチ陣で臨む新体制で果たして、新潟近鉄バファローズの4年目の逆襲はなるだろうか──。
久々にやきゅつくシリーズを体験してみたが、歴代OBや日刊スポーツのマユゲの野崎さん登場に懐かしさも感じつつ、そこにあったのはノスタルジーより生々しさだ。このゲームはプロ野球界の選択肢や価値観が多様化した2023年にこそ、遊んでほしい一本である。
奇しくも、既存の独立リーグ所属の新潟や熊本などか参加を希望するファームの新規球団拡大がニュースになり、ポスティングや現役ドラフトの導入などで選手移籍もさらに活発化している。20年前は普及していなかったSNSでは、FA移籍はお金で動いたと過剰にディスられがち。でも、プロってカネだからね。経営しなきゃならない球団側、短い現役生活で一生分稼ぎたい選手側、人にはそれぞれ事情がある。そんな当たり前の事実にゲーム内で気付かせてくれる、やきゅつくシリーズのリアルさはやはり秀逸だ。
そのパッケージ裏面には、こんなコピーが書かれている。
「今年も、野球にふりまわされたアナタへ。あの興奮を、悔しさを、そして感動を、今度はあなたが「つくる」!!」
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)