白球つれづれ2023・第19回
原巨人の苦戦が続いている。
4月を11勝14敗。借金4のすべり出しは11年ぶりの屈辱となったが、5月に入っても2勝4敗と浮上の気配が見えない。
5日からの中日戦では3連戦3連敗。とりわけ、“魔の8回”が大きくクローズアップされた。
2日のヤクルト戦から8回の失点は6試合連続。(8日現在、以下同じ)チームのイニング別を見ても8回が最多の23失点。重要な場面で失点を重ねていては、絶対的な守護神の大勢がいても宝の持ち腐れ状態だ。
対中日3連敗の内容をもう少し詳しく見てみると“病巣”が明らかになる。
初戦は横川凱が6回途中まで、まずまずの投球を見せるが継投策に入る。1点リードの8回は田中千晴に託して一挙6失点の逆転負け。
第2戦もフォスター・グリフィンが7回1失点と先発の役目を果たすも、8回に2番手の三上朋也が決勝点を献上する。
そして第3戦も先発の赤星優志が退いた後、継投で活路を見出そうとするが、またも8回に直江大輔、菊地大稀が四球を連発して、最後は犠飛で敗れる。
ここで、特筆すべきは中継ぎ投手陣の深刻な人材不足である。
田中千晴はドラフト3位ルーキーなら、三上に至っては、直前に育成契約から支配下登録を果たしたばかり。一軍用ユニホームが間に合わず、背番号053で登場ではいくらDeNA時代に実績があるにせよ荷が重い。第3戦に決勝犠飛を与えた菊池もプロ未勝利の若手。これでは首脳陣の用兵を問われても致し方ないだろう。
強力な「勝ちパターン」を確立した者が勝者に近づく
投手陣の役割は先発、中継ぎ、さらに勝利に直結するセットアッパーとクローザーに分かれる。
分業制が定着する近年の野球では先発は多くが100球前後で降板、どのチームもクローザーには実力者を配置するので、接戦をモノにするには7、8回あたりを任せられるセットアッパーの重要性が増している。
現在、上位を行くセ・リーグのDeNAなら伊勢大夢から山﨑康晃、ヤクルトなら清水昇から田口麗斗の方程式が確立されている。パ・リーグのオリックスは豊富な投手陣で山﨑颯一郎を軸にセットアッパーを回しながら平野佳寿で締める。ソフトバンクはイバン・モイネロからロベルト・オスナに繋げば盤石だ。
巨人の場合は昨年ならルビー・デラロサやチアゴ・ビエイラの快速右腕がセットアッパーを務めていたが、外国人選手の大幅な入れ替えで退団、さらに昨年途中から救援に回って13ホールドを記録した平内龍太や、一昨年にはフル回転した中川皓太らが、いずれもひじ痛で出遅れたため、クロスゲームで戦える布陣を確立できないまま、“見切り発車”でシーズンを迎えた。
投手コーチも桑田真澄現ファーム総監督から阿波野秀幸チーフ投手コーチに交代、一向に上向かない要因を、こうした人事面に向ける見方すらある。
今年は球界全体でも投手に関する異変が多く見られる。
侍ジャパン関連では広島の栗林良吏や阪神の湯浅京己、オリックスの宇田川優希らが戦列を離れてファームで調整中のため、これらのチームは対応に追われている。
抑え役から先発に転向したのは西武の平良海馬、ソフトバンクの森唯斗、日本ハムの北山亘基らがいる。
中でも西武の平良は3連勝と絶好調だが、球界ナンバーワン・セットアッパーと言われた平良の穴は大きい。加えて昨年の新人王である水上由伸が出遅れ、クローザーの増田達至も不安定なピッチングが続いているため、終盤のやりくりに苦労している。現時点での「損得勘定」では微妙なところだ。
開幕から40日あまり。昔から「五月病」と言われるように球界でも、この時期に差し掛かると、最初の疲れや故障者が出て来る。順調に滑り出したチームはそのままの勢いを持続させたいが、一方で多くのチームは誤算からの立て直しに迫られる。
特に“魔の8回”を抱える巨人などは大幅な改善が必要である。水面下では投手陣補強のため、緊急トレードなども画策されているだろう。
まだペナントレースは110試合近くを残している。強力な「勝ちパターン」を確立した者が勝者に近づくのは言うまでもない。野球は、投手を含めた守りから。勝負の鉄則でもある。
指揮官たちの手腕と「やりくり」が問われる時期がやってきた。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)