コラム 2023.05.21. 08:08

北の大地に誕生した“ボールパーク” 世界の野球場を渡り歩いた男が見た「エスコンフィールド」

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エスコンフィールドHOKKAIDO [写真=阿佐智]

北の大地に出現したボールパークへいざ!


 今シーズンを前にして、NPBの本拠地としては14年ぶりとなる新球場が開場した。

 その名も「エスコンフィールドHOKKAIDO」。札幌市南郊にある北広島市の20ヘクタールに及ぶ広大な敷地に整備された複合施設「北海道ボールパークFビレッジ」の中核をなす日本初の開閉式屋根付き天然芝球場として、早くから話題になっていた。

 北海道の玄関口、新千歳空港から道都・札幌へ向かう列車の車窓から望めるその威容は、野球ファンのみならず、北の大地を訪れる人々をワクワクさせている。


 まだ遠くに雪山を望むゴールデンウィーク、この新球場に足を運んだ。その姿を見ての最初の感想は、「ここはアメリカか?!」というものだ。

 突如として目の前に現れたその姿は日本の野球場のスケールを超えていた。その姿はまさに「ボールパーク」というにふさわしい。


 「ボールパーク」とは元々は野球場の別称だが、現代的な意味合いからは、観戦に特化した「スタジアム」とは違い、回遊性をもたせ、場内に様々なアトラクション、飲食を中心とした店舗を取りこんだ娯楽消費施設ということになろうか。

 日本においては、2009年に開場した広島のマツダスタジアムがその嚆矢と言っていいだろう。ただいかんせん、広島駅近くという立地のよる地価の高さもあり、回遊性はあるものの、その建築面積は3万2000平米で、NPB本拠地としても小さい方に属する(ちなみに従来の最大は福岡paypayドームの4万7000平米)。

 エスコンフィールドのそれは、なんと5万平米。先代の札幌ドームも4万4000平米とNPBで3番目の広さを誇っていたが、まさに世界最大級の巨大ボールパークが北の大地に現れた印象だ。


 周囲に何もない(現在は球場横にマンションが建っているが)丘陵にそびえたつ巨大な切妻屋根は、訪れる者を圧倒する。

 この切妻屋根は、バックネット側の固定部とフィールドを覆う可動部の2枚構造で、その大きさは当然のごとく世界最大。可動部の端はスタンドの外まで移動するので、オープン時には、フィールドは完全に日光の下にさらされることになる。

 可動屋根と言えば、paypayドームが日本初だが、こちらは円形の球場を覆う3枚の屋根が1枚に畳まれる構造で、オープン時に内野の多くの部分が影になってしまう。

 この開閉式屋根は、当然のごとく内外野フィールドを覆う天然芝養生のためにあるのだが、残念なことに屋根を開くのは、基本的に試合が開催されない時だという。

 今後、屋根を開けた状態での試合も実施されるというが、望むらくは、晴天時のデーゲームでは、北海道の澄んだ空気の下、観戦するのが当たり前になってほしいものだ。


消費空間としてのボールパーク


 本場アメリカで現代的な意味で「ボールパーク」の語をよく目にするようになったのは、1992年にオリオールズの本拠・ボルチモアにレンガ造りの外観をもつ新球場「オリオールパーク・アト・カムデンヤーズ」が開場してからのことだろう。

 この球場は、ベイサイドの倉庫街という立地をそのまま生かし、ライトフェンス沿いそびえたつ19世紀建造の倉庫を球場敷地に取り込むかたちでデザインされ、ライトスタンドと倉庫の間のスペースは飲食スタンドが並ぶ空間となっている。

 この球場の出現の後、アメリカ球界は急速に「ボールパーク化」を進めていった。今ではメジャー、マイナー各球場とも、場内はショッピングモールの様相を呈し、場内にプールや観覧車を備えたものまで出現している。


 この波は、ラテンアメリカや韓国にも及ぶようになり、かつては殺伐としたコンクリートむき出しのスタンドが並んでいただけだった各国の球場は、次々とボールパークにとってかわられていった。

 日本の場合、アメリカでボールパーク化が進んだ1990年代がドームラッシュであったこともあって、その波の訪れは2000年代後半まで待たねばならなかった。新球場としての本格的なボールパークは先にも述べた広島のマツダスタジアムが最初で、エスコンフィールドは、それに続くものとなる。

 先述のように、エスコンフィールドは広大な建築面積を誇る。巨大なスタンドを囲うように外壁が設置されている。その結果、スタンドと外壁の間に広いスペースが生じるのだが、ここに飲食店街が設置されているのだ。その名も「七つ星横丁」。大都会の地下飲食街のような風景は、それと言われなければ、野球場内の施設だとは思えない。

 このスペースからは、フィールドを望むことはできない。ゲーム中は設置されているテレビモニターでの観戦となるのだが、このスペースだけの利用なら、1200円でスタンドでの着席不可の「エスコンフィールド入場券」で入場可能である。試合観戦よりむしろ新球場自体を楽しみたいというライト層も、気軽に新ボールパークを楽しむことができるよう配慮されているのだ。

 このチケットは、スタンド席が前売りで完売となっても、必ず当日売りされるという。つまりは、野球観戦が主目的のファンも、仮に席を確保できずとも、広大なコンコースからの観戦が可能というわけだ。

 このスペースは、試合のない日も土日休日は営業している。また、デーゲーム開催日は試合後も夜7時ごろまで営業しているという。テナントとして入っている店舗はいずれも名店で、単純にグルメ街として楽しめる空間となっている。


 また、場内にはミュージアム、球場に隣接したビルにはサイクルショップなどの店舗も入っており、エスコンフィールドを中心としたFビリッジは、野球場を核とした娯楽商業施設となっている。


世界初・ととのいながら野球観戦


 単なる観戦空間の枠組みを飛び出した巨大娯楽施設であるエスコンフィールドだが、その目玉はなんといっても“世界初”の球場内の温泉施設だ。

 この新球場には、レフト側スタンドに5階建てのビルがそびえている。その名も「タワーイレブン」。ファイターズからメジャーへはばたいた2人のメジャーリーガー、ダルビッシュ有と大谷翔平の背番号にちなんだネーミングだ。

 1階はコンコースに連なったフードホールになっており、先ほど述べたミュージアムもこのビルに入っている。


 その4階にあるのが、世界初の球場内の温浴施設だ。地下1300mからくみ上げた黒褐色の天然温泉に入りながら野球観戦ができるのだ。

 今はやりのサウナも備えている。サウナに入りながら、備え付けのテレビで野球中継を見るというのは定番のシーンだが、ここではテレビ画面ではなく、生のプレーを見ながら「ととのう」ことが可能なのだ。

 温浴施設には、男女混浴の温泉浴槽とサウナ、水風呂があり、フィールドに面した最前列には24席の観覧席「ととのえテラスシート」がある。

 施設の両端には、男女別の浴槽もあり、ここではゆっくりと入浴を楽しめる。そして浴室の裏にあるバーカウンターでは、軽食や外野中央のスタンド上で醸造されているクラフトビールも堪能できる。


 実際、「ととのえテラスシート」を利用してみた。

 試合日は施設入場料5000円に加えプラス7000円と値は張るが、世界広しといえども温泉とサウナ、野球生観戦が同時に体験できるのはここだけ。真新しい施設であることも考えると、決して高すぎることはないだろう。

 ただ、やはり北海道。水着一丁での観戦はやはり肌寒い。施設ではガウンの貸し出しを行っているが、有料。それなりの料金を取っているのだから、無料貸し出しができないのかというのが率直な感想だった。

 温浴施設の上、5階には観戦可能な12室を備えたホテルがある。球場内のホテルと言えば、世界初の開閉式ドーム球場として1989年に開場したカナダ・トロントのスカイドーム(現・ロジャースセンター)がその最初のものだが、その規模には及ばないものの、ここ北海道でもホテルでくつろぎながらの生観戦というスペシャルな体験をすることができる。


「メジャー級」の観戦空間


 もちろん、“本業”のスタジアムとしても、エスコンフィールドは快適な観戦を保証してくれる。

 3層式のスタンドは、狭いファールゾーンと相まってフィールドを近くに感じさせる。その風景はメジャーリーグのスタジアムを彷彿とさせる。

 内野下層スタンドの端はホームベースに向けて角度を変えているため、席に着けば自然に内野フィールドに視線が行くようになっている。

 さらに言えば、下層スタンドのシートは全てクッション付きのソファ仕様になっている。試合時間が3時間に及ぶ野球観戦は、腰痛持ちの中高年ファンにとっては、しばしば苦痛を伴う。近年は満員状態が多く、足を広げたり、時折体を動かしたりというのはなかなかしにくい。クッションなどを持参して敷く手もあるが、座高が上がってしまって後ろの観客の視線を遮ってしまうことにもなりかねない。

 とくにスタンドの下層は傾斜が緩やかなので、後ろの観客とのトラブルにもなりがちである。その下層スタンドにクッション付きのシートを採用したところに、この新球場がいかにファン目線で設計されているかをうかがい知ることができる。


 場内各スタンドを一周してみたが、どの席からもフィールドは見やすい印象だった。ただ、やはり何ごとにも完璧ということはないのが常で、内野最上層スタンド中央の一部の席はバッターボックスがスタンドゲートの柵と重なってしまう。

 また、内野下層の両端を内野フィールド方面に向けた結果、外野両翼のプレーが死角となってしまっている。野球のプレーをじっくり見たいというファンは、チケット購入の際、このあたりは注意した方がよさそうだ。


やはりネックはアクセス


 設備については、まったく申し分ない新ボールパークだが、やはり最大の問題点はアクセスだ。

 現在のところ、エスコンフィールドの最寄り駅は、札幌駅からJRで20数分の北広島駅である。旧本拠・札幌ドームの最寄り駅である地下鉄福住駅から札幌駅までが15分だったことを考えると、それでだけでもかなり遠くなった印象だ。

 福住駅から札幌ドームまでも遠いと言われていたが、それでも徒歩10分ほどだった。しかし、北広島駅からエスコンフィールドまでは、約2キロ。球場側は「徒歩20分」としているが、線路沿いの遊歩道を歩いて向かうと、Fビリッジの入り口までで20分を費やしてしまう。歩いて向かっていたファンは、「ずいぶん速足で歩いてきたよね」と、その遠さに驚いていたが、現実には駅から球場ゲートまでは30分はかかる。


 観戦の帰りは、シャトルバスを利用してみた。試合終了後、ヒーローインタビューもそこそこに一塁側場外にあるバス乗り場に向かったが、それでも20分待ち。列がどんどん長くなっていったことを考えると、3~40分待ちが「通常運転」のようだ。

 おまけにこの日は試合前には降っていなかった雨が、試合中に本降りになっていた。その中、多くの観客が濡れながらバスを待つ羽目になっていた。このあたり、バス乗り場に屋根を設置することはできなかったのかと思う。

 別の日のデーゲームには、札幌市郊外の新札幌駅からのバスに乗車してみたが、こちらも試合開始2時間前から長蛇の列。乗車するのに30分を要した。

 加えてシャトルバスの目玉だったクレジットカードのタッチ決済の機器が故障し、出発が5分ほど遅れる始末……。これからボールパークを楽しもうというファンの気持ちも、これではなかなか盛り上がらないのではないか。

 ボールパーク前を走るJRの線路上に新駅が誕生するのは4年後だという。それまでこの状況が続くというのは、ファンにとってはかなりの負担だ。素人考えかもしれないが、新駅完成前に臨時駅の設置などできないものかと思ってしまう。


 しかし、考えようによっては、その道のりが困難なほど、実際にたどり着いた時の感動は大きいかもしれない。これまでの日本の野球場の既成概念を破る新ボールパークにぜひ足を運んでほしい。

 ひいきチームの勝利を願っての観戦も悪くはないが、勝負事は必ず勝つわけでもないし、勝ってばかりでもつまらない。ホームチームが勝てなかったら悔しいけれど、3ストライクでアウト。それがボールゲームというものよ、とはアメリカで歌われる伝統的野球ソング、 “Take Me Out to the Ball Game”。

 そうボールパークとは、野球を観る空間そのものを楽しむ場所なのだから。


文=阿佐智(あさ・さとし)

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