白球つれづれ2023・第23回
新庄日本ハムが、まるで別チームのような躍進を遂げている。
2日から東京ドームで行われた巨人との交流戦。3試合で約12万人の大観衆が見たものは日本ハムの溌剌とした戦いと巨人ファンの深いため息だった。
3連戦を2勝1敗と勝ち越した歓喜の中心にいたのは逆輸入ルーキーとして話題の加藤豪将選手だ。
第3戦に「3番・一塁」で先発出場すると3安打猛打賞の活躍でチームは大勝、加藤豪にとっても8試合連続安打は新人選手のデビューから連続試合安打の日本記録となった。(ドラフト制以降)
5月25日の対ソフトバンク戦でプロ初打席に立つと、いきなり初安打。それから“打ち出の小槌”状態が止まらない。同月31日のヤクルト戦では1試合2発と勢いを加速させると、巨人3連戦では14打数6安打の量産で打率を4割台(.406)まで乗せた.このカードでは4番の万波中正も8安打の乱れ打ち。2人併せた「KM砲」で3戦合計は26打数14安打。実に.538のハイアベレージだから巨人粉砕もうなずける。
昨年オフのドラフトで日本ハムから3位指名。メジャーからの逆輸入ルーキーとして話題を集めた。「大谷世代」の28歳。波瀾万丈の野球人生は、まるでジェットコースターに乗っているようだ。
2013年高校生ながら、ドラフトでヤンキースから2位指名(全体の66番目)を受ける。前途洋々に思われた有望株も、その後はメジャーの厚い壁にはね返され長いファーム生活と移籍が続いた。4球団目となるブルージェイズでは昨年待望のメジャーデビューを果たすが、ここでも結果を残せずに最後はメッツ傘下で日本行きの決断を下した。
数年前のインタビューでは自分の信条を「どんな時にも、腐らず前向きに挑戦する辛抱強さ」と語り、メジャーに定着するポイントを「チームに必要な事だったら何でもやって首脳陣の信頼を勝ち取りたい」とユーティリティー選手としての覚悟を明かしている。
メジャーリーガーの中に入れば体格も見劣る。パワーでも勝てない。こうした環境がともすれば「便利屋」に活路を見出そうとしたのだろう。いつしか自信まで失っていたとしてもおかしくない。
28歳での新人王獲得の可能性も
新天地のスタートもつまずいている。
今春の沖縄キャンプでいきなり右人差し指を骨折。開幕間近の3月にも左脇腹の肉離れで開幕の二軍スタートが決まった。
それでも、復活への原動力は長い下積み生活で培ったメンタルの強さだ。
常にベンチでいても、自分が出た時にはどう働くか?
「試合に出ていなくても試合勘キープする能力は僕以上にある人はいない」とアグレッシブに捉える。日本野球に適応するため、打席でのタイミングの取り方も「ベタ脚」に変えて、広角に打てるように心がけている。
デビュー直後には「6番」だった打順も今ではクリーンアップに定着。万波との「KM砲」以外にも、外国人捕手で起用されるアリエル・マルティネス選手が早くも7本塁打を記録、巨人戦では野村祐希選手が貴重な勝ち越し弾を放つなど破壊力も抜群。開幕直後には指定席となっていた最下位から徐々に脱出。交流戦では2カード連続の勝ち越しで上位躍進の夢も見えてきた。
日本ハム自慢の「キツネダンス」は今日も踊り、チームも躍る。
ちなみに加藤豪の活躍が続けば、この先、新人王獲得も可能だと言う。他の外国人選手は他国でのプレー歴が障害となるが、加藤豪の場合は日本でのドラフトを受けているので問題はない。
それにしてもメジャー歴のある28歳のオールドルーキーが新人王? 何か、キツネにつままれたような話である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)