鳴尾浜で評価を高める18歳左腕
二軍の本拠地・鳴尾浜球場から“風の噂”が聞こえてきたのは、つい最近のことだ。
「高卒1年目ですけど、門別はめちゃくちゃ良い球投げますよ」。18歳のルーキー左腕・門別啓人の評判が良い。
東海大札幌高から昨秋のドラフト2位で入団。1年目は実戦よりも体力強化などに専念するケースが多い中で、すでにファームの先発ローテーションの一角に加わったことからも潜在能力の高さがうかがえる。
武器は直球で、変化球も多彩。そんな虎のプロスペクトの先発登板を取材する機会に恵まれたのは、6月1日のウエスタン・リーグ中日戦(鳴尾浜)。ワクワクしながらバックネット裏でスコアブックをつけ始めた。
立ち上がりから直球は148キロを計測し、初回は後藤駿太やソイロ・アルモンテといった一軍でも実績のある打者を封じて無失点。上々の発進となったかに思われたが、この日は苦戦を強いられる。
2回は4安打を集められて先制点を献上。150キロに迫っていた球速も低下するなど、苦しい投球が続いた。
それでも、この苦境で見せた粘投は目を見張った。降板した5回までに11安打を許しながら、自責点はわずか1。5回の2失点は味方の失策によるものだった。
すべてのイニングで得点圏に走者を背負いながら、大崩れはしない。この“たくましさ”が印象に残った95球だった。
「もっと強い球を」
「打たれている中でもしっかり自分なりに粘って、ランナーが出ても投げられたので。そこは良かったところなんですけど」
試合後、本人も「粘り」を収穫に挙げたが、当然ながら反省の言葉も並べた。
「次はもっと変化球の精度を上げてカウント有利な状態で進められたら、もっと楽な試合展開を運べる」
この試合でも110キロに満たないカーブを多投していた。「カーブがゾーンにもっとまとまってくれば。理想です」。掲げる完成形の投球スタイルもすでに明確にしている。
その上で、大事なことも忘れていない。
「ファウルを取れたり、空振りを取れる強いまっすぐをとにかく一番求めて練習してきていて。満塁になった時とか気持ちの入る場面だったら、良い球が行くんですけど……。他の場面でもっと強い球を投げられるようにしないといけない」
ピンチで球威の増す直球を信じ、プロの世界に挑む覚悟でいる。
自分の言葉を持ち、頭の回転も速く、取材中はつい18歳であることを忘れてしまう。
ファームの指揮を執る和田豊監督も「現時点としてはよく粘れた。悪いなりにああいう投球は、なかなかできることじゃない」と相手の攻勢に飲み込まれない粘り強さを評価した。
キャンプ中から目標として「開幕一軍」を口にするなど“高卒”や“1年目”という形容詞を自ら振り払い、視線は常に上を向いている。
「門別啓人」の名が甲子園でコールされる日は、それほど遠くないはずだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)