近畿圏で注目を浴びる4人の投手
6月5日から神宮球場と東京ドームで行われた『全日本大学野球選手権』。青学大が18年ぶり5度目の優勝を果たし、春の大学野球の戦いは終わった。
プロ入りを目指す4年生にとっては、春季リーグが最大のアピール舞台だったと言ってもいい。東都大学野球では、東洋大の最速155キロ左腕・細野晴希や青学大の最速153キロ右腕・常広羽也斗らがドラフト1位候補として評価を上げ、東京六大学では明大・上田希由翔ら好打者が評判通りの好成績を残した。
全国的には関東勢の知名度が高まった今春、プロ入りを目指す関西勢の有力選手は、どうだったか──。今回は注目の4投手の現在地に焦点を当てる。
上田大河(大商大/関西六大学)
・182センチ/86キロ・右投右打
・最速154キロ
今春に自己最速を1キロ更新する154キロを計測した本格派右腕。今春は、ともにリーグ1位となる6勝・防御率1.33と圧倒的な成績を残し、春季リーグ優勝の立役者となった。
球威を感じさせる直球だけでなく、スライダー、カットボール、カーブ、フォーク、チェンジアップと多彩な変化球を操る総合力の高さが持ち味だ。
今春リーグ戦では8試合(先発5)に登板し、失点したのは2試合のみだった。調子に関係なく結果を残す安定感は、勝てる投手の素質を兼ね備えていると言えるだろう。
全日本大学野球選手権では初戦の星槎道都大戦に先発。初回先頭に右翼線の二塁打を許して以降、打者21人連続無安打で7回を1安打・1失点と圧巻の投球内容でアピールした。
相手先発の153キロ左腕・滝田一希とのプロ注目対決だった一戦に完勝し、ネット裏から見守った日本ハムの稲葉篤紀GMは「いろんなパターンの抑え方がある。馬力があり〝強い投手〟だと感じた」と評価した。
強豪校で1年春からベンチ入りし、4年間安定して結果を残してきた実績や体の強さも申し分ない。最終学年も順調に滑り出し、上位指名を狙える投手と言っていい。
高太一(大商大/関西六大学)
・180センチ/80キロ・左投左打
・最速151キロ
大商大の右のエースが上田なら、左のエースは高だ。
3年春のリーグ戦で自己最速151キロを計測して評価を高めた先発型左腕で、制球を乱して崩れることのない安定感を持ち味とする。
今春は本領を出し切れなかった。4月23日の京産大戦でコンディション不良を発症。その後は登板できないまま、リーグ戦を終えた。
それでも、全国大会には間に合った。全日本大学野球選手権2回戦・花園大戦の先発を託されて、6回1/3を1失点と好投した。登板前は5イニングの予定だったが、志願の続投で完全復活を印象づけた。
「想像以上に球速が出た。思っていたよりも直球で押せました」と振り返るように、復帰戦ながら最速147キロを計測。最後の打者に四球を与えるまで、初回先頭から打者24人連続無四球を続けていたように、持ち前の制球力も光った。
ネット裏では、6球団のNPBスカウトが熱視線を送っていた。
視察した巨人の桑田真澄ファーム総監督は、神宮球場で視察予定だった試合の開始時間が目前まで迫っていたにも関わらず、交代まで見届け「フォームがきれいで、ストライクを取ることに苦労しない。まとまりのある投手で非常に楽しみ」とうなずいた。
登板数が限られていた今春は評価を上げるまでには至らなかったとはいえ、評価を落としたわけではない。
大学生投手のドラフト上位候補は右腕が大半を占めているだけに、先発もできる左腕は貴重。スカウト陣は秋も継続して動向を注視する方針だ。
真野凜風(同大/関西学生野球)
・187センチ/80キロ・右投右打
・最速152キロ
最速152キロの直球と、鋭く曲がるスライダーを武器とする187センチの長身右腕だ。
昨秋は登板8試合で9回2/3を自責0と救援投手の適性をアピール。今春から先発投手に配置転換され、本領が試されるリーグ戦だった。
結果は、先発6試合で2勝2敗、防御率2.88と上々。完投勝利を2度挙げるなど、先発としての体力を兼ね備えていることを示した。
4月14日の近大戦では9回・118球、9奪三振、1失点の好投で2試合連続完投を飾った。今春の優勝チーム相手に先発として好投したことは、アピール材料になったに違いない。
ただし、2回以下で降板した試合が2度を数えた。評価を高めるには、本調子ではない試合で先発の役割を果たすことが求められるだろう。
高校まで軟式野球部に所属していた異例の経歴の持ち主で、大学生ながら伸びしろを残す素材型。将来性をどう評価するかで、スカウト陣の評価が変わりそうだ。
谷脇弘起(立命大/関西学生野球)
・185センチ/86キロ・右投左打
・最速151キロ
切れ味鋭いスライダーを武器に、高い奪三振率を誇る立命大の主戦投手である。
「三振にはこだわっています。追い込めば三振を取れる自信はあります」と明かす通り、今春は34回2/3で35三振を奪った。
奪三振率の高さは、高校時代から評判だった。那賀(和歌山)では、3年夏の県大会で1大会最多記録の66奪三振(6試合・計47回1/3)。高校から勝負球して磨いてきたスライダーを武器に、プロ注目投手にまで評価を上げた。
今春は登板7試合(先発6)で3勝3敗、防御率3.12。昨秋は先発5試合で防御率1.78だっただけに、昨秋を上回る成績を残すまでには至らなかった。
冬の間にフォークの完全習得を目指していたように、秋にさらなる上積みを見せられる余地は残している。スライダー以外での投球の幅を見せられれば、スカウト陣の評価も変わってくるだろう。
今回は近畿圏で知名度の高い大学生4投手を取り上げた。この4人に限らず、春の収穫や課題をどのように消化し、技術向上につなげるかもスカウト陣は見ている。
文=河合洋介(スポーツニッポン・アマチュア野球担当)