コラム 2023.06.22. 18:39

巨大市場と日本球界の格差【メジャーの“日本詣で”が止まらない】

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レッドソックス・吉田正尚
 今オフに、FA権を取得する大谷翔平選手(エンゼルス)の獲得戦が早くもヒートアップしている。

 現地では10年の年俸総額5~6億ドル(約810億円)が相場と伝えられる。年俸に換算して約81億円。いかにその存在価値が図抜けているかがわかる。

 その大谷は別格としても、日本人メジャーリーガーの活躍は例年以上に目覚ましい。メッツに入団した千賀滉大投手は6月時点ですでに7勝をマーク、強力な先発投手陣にあって首脳陣の信頼を勝ち取っている。同じく今季からレッドソックスの一員となった吉田正尚選手も、クリーンアップを任され、アリーグの打撃成績で首位打者を覗うほど。ファンの間では「安い買い物だった」と最大級の評価を受けている。これでは当分、米編成担当の“日本詣で”は続くだろう。

 昨年ソフトバンクでの年俸が6億円(推定、以下同じ)だった千賀は5年契約7500万ドル(約101億円)でメッツ入りした。同じくオリックスの最終年に4億円だった吉田は同5年契約9000万ドル(約126億円)でサインしている。年俸換算で、千賀は約20億、吉田は約25億のビッグマネーを手にしたことになる。吉田に至っては日本時代の6倍以上である。

 さらに注目すべきは、この千賀と吉田の契約が、今後メジャー入りを目指す日本人プレーヤーにとって、一定の相場となり、米国側から見ても一つの目安になると言うことだ。

 今オフのメジャー挑戦が有力視されるオリックス・山本由伸投手を例にしてみよう。前年まで2年連続でパリーグの投手四冠に輝く実績は、千賀をも凌ぎ、今季年俸は6億5千万円とされる。すでに米国でも複数球団が獲得に名乗りを挙げる現状を考えれば、千賀以下の契約は考えにくい。

 さらに近年、メジャーから熱い視線を浴びる若手が増えている。その代表格が投手で佐々木朗希(ロッテ)、野手で村上宗隆(ヤクルト)両選手だ。

 佐々木が22歳で、村上は23歳。本来なら海外FA権を取得出来る年齢でもない。しかし、近年はメジャー挑戦を希望して、球団と話し合いに入り、ポスティングシステムを活用。若くして夢を実現させる例も少なくない。これには日米間のサラリー格差と、日本側の球団事情が影を落としている。


日本球界でスーパースターに支払える限度額とは


 すでに、日本と比較して5倍も10倍も支払い能力のある米側の金満ぶりは言及したが、では日本各球団の場合はどうか?

 全選手の中で今季の最高年俸は山本由伸の6億5000万円。昨年、史上最年少で三冠王とMVPを獲得した村上は昨季年俸2億2000万円から6億円に跳ね上がっている。だが、これまでの日本球界で10億に達する巨額契約はない。選手の総年俸を予算化する球団にあって、1人のスーパースターにも支払える限度がある。それが現在では6億円の攻防となるわけだ。

 昨今の日本球界では、チームの若返り策を進めるケースが多い。国内FAも含めて肥大化する人件費を抑える意味もある。それでも苦しい場合には、ポスティングシステムを認めて海外流失も辞さない。これなら球団側に譲渡金も手に入る。さらに、プロ野球選手会では労使交渉の席で、FA権の短縮を求める要望書まで出している。このまま行けば、メジャーへの流出に歯止めはかかりそうにない。

 すでに米担当者の間では“日本詣で”ならぬ“佐々木詣で”が始まっている。

 最速165キロの快速球に「お化けフォーク」を駆使する奪三振マシーンの潜在能力はメジャーリーガーのトップクラスと比較してもそれ以上のものがある。

 佐々木の今季年俸は8000万円だが、今の活躍を続ければ2~3年後には「6億ライン」に到達するだろう。その時、米球団はどれだけの巨額を用意するのだろうか? 今から怪物の動向には目が離せない。



文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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