コラム 2023.07.04. 07:04

一生遊べる“神サクセスモード”…発売24年後もシリーズ最高傑作と愛される『実況パワフルプロ野球6』

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「一生遊べる」野球“人生”ゲームとは…?

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第28回:実況パワフルプロ野球6


 「パワプロ6のサクセスモードは、一生遊べると思いましたから」

 新連載の打ち合わせに来たはずの編集者のO君は、浅草橋のコメダ珈琲店で唐突に自身の野球ゲーム体験を熱く語り出した。

 「連載で何を書くにしても、すべては作り込みなんですよね。リアリティは細部に宿りますから。例えば、パワプロ6のサクセスモード。あれは一生遊べるクオリティで、しかも当時の子どもたち……まあ俺らなんですけど、このサクセスモードから大人の世界を教わったんです」と断言したのであった。


 1990年生まれのO君は、99年3月25日にNINTENDO64の『実況パワフルプロ野球6』(コナミ)が発売された直後に小学校3年生になった。

 そして、この『パワプロ6』がクラスの男子の間で爆発的に流行り、ゲームボーイカラーの『パワプロクンポケット』とセットで体力の限界までやりこみ、親の目を盗んで生まれて初めての夜更かし。心のベストテン第一位は、深夜テレビの『トゥナイト2』でも『ギルガメ』でもなく、いつも『パワプロ』だった。





ゲームを通じて「社会勉強」?


 「シナリオモードも、“ロッテのエース黒木はチームの17連敗を阻止できるか”とか、“全盛期の大魔神・佐々木を中日の大西は打てるか”みたいな名作揃いでゲキ熱なんですよ」

 前年の98年シーズンは、ロッテがプロ野球記録の18連敗を喫し、38年ぶりの日本一に輝いた横浜には45セーブ、防御率0.64という驚異的な安定度を誇った佐々木主浩がいた。

 さらに『パワプロ6』には、発売直後に東京ドームであの伝説の155キロデビューを飾る、西武のゴールデンルーキー松坂大輔が初登場したことでも話題となった。

 なお、当時は巨人戦だけではなく、地上波テレビのゴールデンタイムで連敗中のロッテ戦や松坂の登板試合が普通に生中継される、プロ野球が“国民的娯楽”だった最後の時代でもある。





 「ドラマティックペナントが導入されて、チームを育成するって概念も新しかったんですけど、やっぱサクセスモードにみんなハマりましたよね。大学野球編で6つも大学のストーリーがあるんですよ。その学内環境が全然違って、それぞれの固有イベントも多いからやりこみ要素も強い。やたらとバイトしなきゃならない熱血大学とか、官僚大学ってエリートで実家からの仕送りが多いから、お金には困らない学校があったり妙にリアルな設定で。えっ仕送りって何?みたいな。そんな言葉もまだ知らないから親に聞いたりして。たぶん当時の小学生は、自分みたいに、このサクセスモードで社会常識を知った子も多かったと思いますね」

 ゲーム中で保険に勧誘されたり、学生ローンのチラシを貰ったり、合計取得単位で進級の可否が決まるといった大学生のありふれた日常は、少年たちには新鮮で刺激的だった。

 しかも、練習や授業の合間に女の子からカラオケに誘われて遊び、「彼女評価」が上がると特定イベントを経て付き合えるたりもする。彼女と別れて、特殊能力の「サヨナラ男」を習得って野球と恋の二刀流はいつの時代も難しい。

 保険セールスレディ矢部徳子の大人の魅力に惑わされながらも、ギャル系の鬼塚真夏を彼女にすると、ワガママでお金をどんどん使われてしまうといった、漫画『BOYS BE…』よりもリアルな描写がまた生々しかった。





 アルバイトにはコンビニ店員やティッシュ配りから、10万円の高額バイト「新薬のテスト」まである。薬で失敗すると能力が一気に下がるが、ダイジョーブ博士の改造手術の成功率を挙げる効果もあるので、序盤にチャレンジが鉄則。

 しかし、大学3年あたりになると、デート代や保険代、さらには20歳からの国民年金の支払いまでイベント化。異様にリアルな学生生活を送るうちにプロ入りの夢が遠のき、野球は二の次で、ひたすらバイトで借金を返すというシビアな人生ゲーム状態に陥りがちだ。





究極の「野球人生ゲーム」


 なぜ、ここまでリアルすぎる学生生活を再現したのか?

 『実況パワフルプロ野球6 サクセスモード 公式完全ガイドブック』掲載の開発スタッフのダイヤモンドヘッドプロダクション座談会によると、自分たちの大学時代にお金に困って様々なバイトをした実体験を反映させているという。

 さらにサクセスモードで参考にしたのは、『魁!!男塾』、『ナニワ金融道』や『ミナミの帝王』といった男臭い漫画の世界観。なお、「一軍、二軍、三軍」の激しい生存競争がある、あかつき大学のノリは漫画『キャプテン』だという。


 コメダ珈琲のO君は「今思えば、あの元ネタは『アストロ球団』だったのか、みたいなカルチャー面でも他の野球ゲームとはちょっと違いましたよね」と絶賛しながらも、やはり野球面でも最新の球界事情が落とし込まれていたと振り返る。

 「もちろんそういうゲーム性だけでなく、野球部分も作り込まれていて、PNFって練習を選ぶと疲れも回復するんですけど、サクセスモードでPNFトレーニングを覚えた人も多いんじゃないですかね。仏契(ぶっちぎり)大学の監督兼エースの大豪月様って投手が、150キロ台後半から160キロ弱のストレートでめちゃくちゃ速くて。まあ99年は日本人最速がこのラインだったんですけど、今じゃ当たり前のように160キロ超えしてる。ゲーム最強のボスキャラでも165キロなんて夢だったのに。そのあたりは当時の球界事情が分かりますよね」





 好き勝手やっているようで野球面はガチという、絶妙なバランスでパワプロ6のサクセスモードは成立していた。そりゃあ特許出願もするぜ……じゃなくてまさに唯一無二のゲームシステム。かつ少年たちに社会の常識を教えてくれた究極の「野球人生ゲーム」でもあった。

 「大学4年でプロになれないと、サクセスモードの選手データが強制的に消えちゃうんですけど、プロ野球選手になることをあきらめて、保険会社に就職する人生が必ずしもバッドエンドだとは限らない……って大人になった今は思うんですよね」





 例え夢がかなっても、いつかその夢からも覚めちまう。引退や戦力外通告だってあるしさ。そうか、当時小学生のO君も30代だもんな……ってもはや何の話をしているのかよく分からないが、深い。

 そう言えば、肝心の新連載の話を1秒もしていない気もするが、そんなことはもうどうでもいいのだ。それよりも早くウチに帰って、野球ゲームをやろう。今夜は、仕事よりもパワプロだ。授業よりも、サクセスモードに燃えたあの頃のように──。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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