15日の広島戦で9回途中、降板するDeNA・山﨑(中央)。右は三浦監督 (C) Kyodo News

◆ 白球つれづれ2023・第29回

 オールスターゲーム直前の16日、DeNA・三浦大輔監督が苦渋の決断を下した。絶対的守護神である山﨑康晃投手の“降格”だ。

「チームで戦っていくうえで(クローザーから)外した方がいいと決断した。総合的な判断。(後任は)いるメンバーでやっていきます」

 惨劇は15日の広島戦で起こった。

 エースの今永昇太が8回を無失点の満点投球。6回に挙げた虎の子の1点を守りきれば、勝利を手にする。いつも通りに山﨑が9回のマウンドに向かった。

 だが、頼みのクローザーは広島・坂倉将吾選手に同点弾を浴び、続くマット・デビッドソン選手にも二塁打を喫して降板。その後、救援のエドウィン・エスコバーもつかまって逆転負けを喫した。

 どんな鉄腕でも不調の時はある。しかし、今季の山﨑は20セーブを記録する一方で0勝6敗、防御率も4.45(16日現在、以下同じ)と内容が悪すぎる。登板時の表情を見ても、自信なさげに目が泳いでいる場面がしばしば見られる。これでは、首脳陣から「抑え失格」の宣告を受けても致し方なかった。

 チームで一、二を誇る人気者。マウンドに向かう時には球場全体で応援する「康晃ジャンプ」は有名だ。

 入団1年目から37セーブを挙げて新人王に輝くと抑え一筋。この間には最多セーブのタイトルや、東京五輪の金メダル、最年少200セーブなど輝かしい実績を積み重ねてきた。

 だが、近年は好不調の波が絶対守護神を襲う。20、21年は不調からクローザーの座を三嶋一輝に明け渡し、苦悩の時期が続いた。それでも昨季には37セーブを上げて完全復活。今年も首脳陣の信頼を受けて抑えのマウンドに上がり続けた。

 何が山﨑の投球を狂わせたのだろうか?

 ヒントを見出すとすれば、月別の投球内容に注目してみたい。

 4月の防御率が12試合の登板で1.54に対して5月は13.50と悪化。

 6月には2.57と持ち直すが、また7月は4.26。(登板数は5月以降各7試合)つまり、好不調の波が隔月ごとにやって来ているのがわかる。

 開幕直後の登板過多や疲れが5月に表れ、7月が猛暑による第二期の疲労と取れなくもない。もう一つ、不調の要因を技術面に挙げるなら球種の少なさも気になる。

 山﨑の代名詞はフォークのように曲がり落ちるツーシームと150キロ台のストレート。他にはスライダー、カーブも投げるが全投球の8割以上は前述の2球種に絞られる。もちろん相手チームの分析も進んでいるが、生命線のツーシームを生かすためにはストレートのキレが絶対に不可欠、さらに精密なコントロールがないと痛打を浴びる可能性は大きくなる。

◆ クローザーという過酷な役割

 山﨑に限らず、今季は各球団ともクローザーの不安定さに苦しんでいる。

 セ・リーグでは広島・栗林良吏、巨人・大勢や阪神・湯浅京己ら開幕時点で抑えの切り札として計算されていた男たちが肩痛や不調で現時点ではクローザーから外れている。

 パ・リーグではオリックス・平野佳寿、ロッテ・益田直也、西武・増田達至らのベテランが気を吐いているが、打ち込まれる場面も目立つ。ここまで防御率0点台の圧倒的な数字を残すクローザーは中日のライデル・マルティネス、ソフトバンクのロベルト・オスナに、日本人では楽天・松井裕樹が名を連ねるだけだ。

 抑えて当たり前、打たれれば自軍に敗戦をもたらし、勝利投手の権利までなくしてしまう。何とも因果で過酷な職場である。

 山﨑の変調は優勝争いを展開するチームにも暗い影を落としている。16日までの直近10試合では4勝6敗。首位を行く阪神も同星なので致命的な差は開いていないが、広島の急追を許している。

 クローザーからの配転が決まったものの“ポスト山﨑”について指揮官は明言を避けている。伊勢大夢、入江大生、エスコバーらの名前は浮かぶが決め手とはならない。三浦監督も、再び山﨑が調子を取り戻して守護神の座を奪い返すことを願っているに違いない。

 再び「康晃ジャンプ」がハマスタを揺るがすことが出来るのか?

 25年ぶりのVへ。チームも正念場を迎えている。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)