白球つれづれ2023・第32回
2年連続最下位へ、歯止めの効かない立浪中日だが、明るい話題もある。
4年目の若武者・岡林勇希選手が6日のヤクルト戦で20試合連続安打を記録した。ゲームは1-3で敗れたため、マスコミの扱いは小さいが、なかなかの快記録だ。
現在21歳5カ月の岡林、21歳以下で20試合連続安打を記録したのは05年の今江敏晃(ロッテ)以来だが、セ・リーグに限れば1952年の佐藤孝夫(国鉄)以来71年ぶりの快挙となる。
岡林の名が全国区となったのは昨年のこと。レギュラーの座を掴むと、いきなり最多安打にベストナイン、ゴールデングラブのタイトルを手にした。
打って良し、守っても7補殺はリーグトップに、走って24盗塁と三拍子揃った活躍で大ブレークを果たしている。
今季も全試合出場で打率.309はリーグ3位で、安打数122本は2位の中野拓夢選手(阪神)に8本差をつけて2年連続最多安打へ視界良好だ。首位打者も狙える位置にいる。(6日現在、以下同じ)
19年のドラフト5位入団。同年の1位は石川昂弥選手で、甲子園で活躍して高校日本代表の4番も務めた石川に対して、岡林は三重の菰野高出身、ほぼ無名に近い存在だった。
高校時代はエースで4番。本人も最速153キロの速球を武器に投手として勝負したい気持ちもあって、ほとんど本格的な打撃練習もしたことがなかったと言う。それでいて、1年目のキャンプから非凡な才能は首脳陣の目に止まる。
俊足・巧打の左打者と言えば、目の前に大島洋平選手と言う生きた教科書がいる。こちらは2000本安打まであと15本に迫っている。その大島が長く守ってきた「1番・中堅」の座を岡林が受け継ぎ、後継者として歩み出した。
岡林の魅力は、こつこつと安打を量産するだけでなく、スピード感あふれるプレーにも見ることが出来る。今月4日のヤクルト戦では1試合に2本の三塁打を放っている。これもセリーグの1試合最多三塁打に並ぶ記録。ヒットを生む技術に、外野からの強肩、さらに快足を飛ばした三塁打で塁上を駆け回る。
「イチローに最も近づいた選手」となる可能性を秘める
もしも、このまま21歳で2年連続最多安打となれば、前途洋々。その先には「伝説の人」まで見えて来る。稀代の天才・イチローだ。
日本国内では、若くして5年連続最多安打に7年連続の首位打者など数々の打撃記録を打ち立てた不世出の打者と岡林を比較したら、足元にも及ばないのは、もちろん承知している。だが今後、岡林が首位打者のタイトルを獲ることは不可能ではない。そこに、プロでもトップクラスの俊足と強肩が加われば「イチローに最も近づいた選手」となってもおかしくはない。21歳の若者にはそれほどの伸びしろと可能性がある。
最下位地獄から抜け出せないチームを巡って、一部では立浪和義監督の更迭までささやかれ出した。3年契約とは言え、指揮官の責任を指摘されても致し方ない現状だ。
若返り策を進める中、現役ドラフトで獲得した細川成也選手が主砲に成長し、岡林や石川らも主力選手としての位置を固めつつある。だが、それだけで現在の泥沼から脱却出来るとは思えない。
リーグや球界を代表するようなスーパーマンの出現が必要だ。それが投手で髙橋宏斗なのか、打者で石川なのか、それとも実績で一歩先を行く岡林になるのか?
いずれにせよ、無限の可能性を秘める岡林と言う男、もっともっと注目を集めてもいい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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【お詫びと訂正】※8月8日12時30分
初出時、記事中の内容に誤りがありましたので、該当箇所を訂正しました。
誤:狐野高
正:菰野高
読者の皆様ならびに、関係者の皆さまにご迷惑をお掛けしましたことをお詫び申し上げます。