昨年指導者1年目で魅せた指導者の手腕
社会人野球チーム「ショウワコーポレーション」を率いて戦う2年目のシーズン。亀澤恭平監督は「都市対抗出場、クラブ選手権優勝、プロ輩出」3つの指針を打ち立てた。それには監督就任1年目で確かな結果を残し、オフには自らのコネクションを駆使した的確なスカウティングの元、着実にチームをレベルアップさせたという自負に基づいている。
「地元に恩返しを」を胸に、岡山美作市に籍を置くチームの監督に就任した亀澤は「とりあえず野球をやりたいだけの連中の集まり」だったチームに直面しながら“ゼロベース”で指導。
「監督が一生懸命にならないと選手もついてこない。必死だった」と振り返るほど、選手たちと正面から対峙した。結果、昨年は真夏の全日本クラブ野球選手権大会の地区予選を勝ち抜き、中四国地区代表として堂々と晴れ舞台まで進んだ。
初めて立ったステージでは、残念ながら1回戦で敗退したが、新人監督の一年目で、21大会ぶりとなる快挙を達成した手腕は、アマチュア球界にその名を轟かせた。
2年目の挑戦と課題
そして迎えた2023年シーズン。ある程度の実力を持った選手を獲得できたこともあり「今年は去年のような強制力を持った指導はゼロにし、あくまでも選手ファーストでの指導に着手しました」と指導方向を180度変えた。
そこには「何が良くて何が悪いかを知ってもらう為。常に周りが見れるように、気付かせる事を重要視しました。声を大にして指導する事もほとんどなく常に冷静に練習、試合をこなしてきましたので、チーム作りは全くしていないですね」と個を伸ばすことにこだわった。
そして迎えた都市対抗野球岡山・島根県予選。準決勝で名門・シティライト岡山に敗退。しかし敗者復活戦では2試合とも圧勝し、再び決勝でシティライト岡山と対峙するが、残念ながら返り討ちにあってしまい、第一の目標達成はここで断たれた。
戦いを通じて「まだ都市対抗に出れるレベルではない」と否が応にも実感させられた。「ゲームの流れを読めない選手が多いのと、ほぼ新人選手なので実戦経験が少ない事、さらに体力面でも弱さがゲームで顕著に出てしまいました」と唇を噛む。
ただ「勝つ為には心、技、体がさらなる向上が必要ですが、やるかやられるかの試合を今回初めて経験した選手が多い中、それでも奮闘してくれました。あともう少しですよ」とレベルアップに手応えも感じ取った。
2年連続の全日本クラブ選手権へ
目標を切り替えて挑んだ全日本クラブ選手権の中国・四国予選前「都市対抗予選後に社外選手が全員辞めました」とチームはここで形を変えた。
「全員が同じ方向を向く事が難しいクラブチームですが、社外選手が辞めて全員社員になった事により気持ちが全員一致できました」と推進力の増したチームは初戦圧勝、決勝は1点差の僅差のゲームを見事にモノにし、2年連続の全国の舞台へ駒を進めることが決定した。
結果を残し「チームを引っ張っていくべき選手が、しっかりと引っ張ってくれたお陰で全国を決められました」と笑顔も見せる指揮官。特に「ソフトバンクのキャッチャーの(甲斐)拓也もお墨付き」と、セカンドスロー1.8台を誇る江口亘など、有力選手の成長も感じ取れた。
それは今シーズンの個を活かす指導方針が、主力の選手達の自覚の芽生えとなって結果を出したことに、指揮官も目を細めた。
9月2日から新潟で開幕する全国の舞台。全試合デーゲームと酷暑の中でプレイボールがかかることで「炎天下の中でほぼスタメンが決まった状態でのゲームが続きます。社外選手が辞めた一番の影響は、控えがいない事。そこの不安要素は多いですね」と素直な心境も吐露。その上で「全国で優勝する事はチームの目標でもあるので、全力でそこに向かっていく。下を向かず、常に上を向いて!」と現役時代からのポジティブな姿勢で、全国の強敵に立ち向かう。
勝負の3年目へ向けて
もちろんいまはこの戦いに集中している。しかし「この全国が終わったら監督2年目にして初めてのチーム作りに着手していきます。ショウワコーポレーションの野球の“色”を決める時が初めてきました」と勝負の3年目に向けて目をギラつかせる。
「スタッフ、選手と会話をしながらどんな“色”にするか」と徹底的に追求することが「来年の成績に大きく反映してきますからね。これから今までで一番しんどいときがやってきますよ」と苦難を承知の上で理想のチームを作り上げる覚悟を示した。
また「来季は始めからオール社員での活動になります。イメージでは25人から30人体制で、全国からの希望者もどんどん増えてきましたし、プロからの獲得もいま打診中です」とニヤリ。
「やる気のないものは去り、会社愛を持ちながら熱い人間力を持った選手をすでに数多く獲得しました。実はプロからも熱視線を送られていた選手も3名います」と自らの意に沿った、実力も折り紙付きの選手らとベクトルを同じく進むと明言。
「来季までにどんな“色”になるか。期待して頂きたい」と静かながらも自信に溢れた言葉を、最後に残した亀澤恭平監督。
エリートとは程遠い経歴からプロの舞台で5年間、421試合で躍動した“開拓者”が舵を取る船は、アマでも未知の世界へ誘う航海を続けていく。
取材・文=萩原孝弘