1球の失投も許されない場面で役割を全う
18年ぶりのリーグ優勝へ突き進んでいるタイガースで、渋く存在感を示している仕事人がいる。
プロ13年目のリリーバー・島本浩也の出番は、いつもタフだ。ピンチで名前をコールされると1球の失投も許されない場面で役割を全うし、涼しい顔でベンチへ帰ってくる。
岡田彰布監督の信頼も厚く「こういう時(走者がいる時)は島本よ。島本さまさま」と称賛している。
8月6日のベイスターズ戦はその最たる例。1点リードの7回に2番手の浜地真澄が一死二・三塁と窮地に追い込まれると、バトンを託された。
代打・楠本泰史をスライダーで遊飛に仕留めると、最後は関根大気を渾身の146キロ直球で空振り三振。一打浴びれば逆転を許す場面で塁上の走者を釘付けにし、2つのアウトを奪って見せた。
活字にすれば数行で終わってしまうが、スコアボードにゼロが刻まれるまでの時間は長く感じるだろうし、実際マウンドに上がっている者の心中は想像を絶する。だが、当の本人は少し首をかしげながら言った。
「ピンチでマウンドに行って“やばっ”みたいなのは一瞬で、もうそこからは緊張もそこまでしないですね。自分は走者なしの同点の1イニングとか、そっちの方が嫌ですね」
この落ち着きがそのまま“火消し”に生きている。ただ、ピンチでも動じないこの肝っ玉は天性のものではないという。
「今まで失敗しまくってきているんで。そのことが生きているというか、マウンドでいろいろ考えられるようになりましたね」
過去に負った“痛み”が肥やしとなる
2月に30歳になった背番号46は、もうプロ13年目になる。育成入団からはい上がり、20年にはトミー・ジョン手術も経験。3桁の背番号も「126」「120」と2度背負ってきた。
「昔はそんなコントロールないのに全部“ビタビタ”でいかないとあかんとか考えすぎて、苦しくなってストライク投げたところを打たれたり」
過去に負った“痛み”が肥やしとなって「今はしちゃダメなことを考えて投げています」と冷静な思考回路にも繋がっている。
今季は春季キャンプ中に若手と入れ替わりで2軍降格。開幕メンバーからも漏れたが地道に結果を残し、5月に初昇格を果たすとブルペンの一角に定着した。
19年には自己最多の63試合に登板した実績もあるが、追い求めるのはそこではない。
「19年は勢いで投げていたので。今は全然違うと思います」
年齢もピッチングスタイルも大人になった島本はきょうも当たり前のように過酷な働き場に向かう。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)