白球つれづれ2023・第36回
セ・パの優勝争いは阪神とオリックスが着実に優勝マジックを減らしている。
このまま行くと、早ければ今月中旬、多少時間がかかったとしても20日過ぎには両チームとも栄光のゴールにたどり着きそうだ。
次の興味はクライマックス進出チーム争いに移りつつある。3位以内に入れば、まだ日本一の可能性は残るが、4位以下に終われば地獄のオフが待っている。
特に巨人の原辰徳監督は2年連続のBクラスなら、進退問題まで発展する可能性がある。3年契約の2年目とは言え、常勝軍団とは思えぬ低迷には大きなメスを入れる必要に迫られているのも事実だ。
そんな目で見ていた1日からの対DeNA3連戦。互いに3位争いの直接対決だが、その中身はお寒かった。
初戦こそ、巨人・戸郷翔征とDeNA・東克樹両エースの対決となったが、戸郷が早々と打ち込まれて大敗。第2戦は巨人の投手陣が崩壊、7投手をつぎ込んでも足らず、8回には野手の北村拓己選手をマウンドに送る醜態をさらしている。第3戦こそ、乱打戦を制して逆転勝ちをおさめたものの、決勝点はDeNA・上茶谷大河投手の四球と牧秀悟選手の拙守(記録は安打)に助けられたもの。3連戦を通じて、巨人には、何が何でもAクラスに肉薄、奪取する、と言うチーム戦略や気迫が感じられなかった。
「野球は守りから」。勝負事の鉄則でもある。
3日のセ・パ6試合に、ある共通点を見出した。四球を多く出したチームは全敗している。最多与四球は楽天戦のロッテで6個の四球を許して、ゲームは1点差まで追い上げたが惜敗。逆に最少は阪神・伊藤将司投手の無四球完投。パの首位を行くオリックスも東晃平投手が死球を一つ与えたが、与四球はゼロ、つまり四球がいかに勝敗と直結しているのがわかる。
味方のミスをいかに減らして、相手のミスに乗じるか?
ミスと言えば失策やバントのミスなどがクローズアップされるが、投手のミスは与四死球だ。相手打者が打たなくても、塁上に走者を許す。つまり、1本の安打と1個の四球は同じ意味を持つ。特に試合終盤のクロスゲームでは一つの四球が命取りとなるケースは多い。
阪神の強さを象徴する四球の数
この四球を最も効果的に生かしているのが今季の阪神である。
3日現在、チームの与えた四球「269」は12球団最少。逆に選んだ四球「433」はこれも12球団最多を数える。チーム方針として、キャンプから選球眼を磨き、投手陣には精密なコントロールと精神面のタフさを訴えている。岡田彰布監督の目指すソツがなく、すきの無い野球が実践されているから現在の位置にいる。
逆にチーム打率や同本塁打でリーグトップを行く巨人を見れば与四球「353」(リーグ5位)に、奪った四球は「292」(同5位)で、一発に頼るしかない現状が浮き彫りになる。
いわゆる“四球病”にも、いくつかの原因がある。
元々、コントロールが悪く制球の定まらない「ノーコン・ピッチャー」と、ピンチの場面で精神面の弱さが露呈するタイプや、その日に限って体が重く本来の投球が出来ないなどだ。
かつて、コントロールの悪い投手をキャンプで取材していると、捕手の構えたところに8割方投げられている。それが実践になるとストライクが入らない。その投手は数年後、結果を残せず現役引退に追い込まれた。
プロに入団する以上、大半の投手は一定の完成度を有している。だが、一度打ち込まれると、自信を失い持ち味まで忘れてしまうケースがある。データ野球の中で必要以上に、コースぎりぎりを狙いすぎて四球を与えてしまうこともある。
一つの四球や、一つのミスから思わぬドラマが生まれるのも野球。だが、それを克服しない限り上位チームを脅かし、頂点を取ることは難しい。
クライマックス進出を狙うチームの「四球」に注目してみるのも面白い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)