白球つれづれ2023・第39回
パリーグのクライマックス(以下CS)進出争いが、史上空前の混戦模様を呈している。
24日現在(以下同じ)ソフトバンクとロッテが勝率5割で同率2位。さらに4位の楽天が1ゲーム差まで追い上げてきた。残り試合が一桁になっても3位以内はまだまだ確定しそうにない。
これほどまでの混戦を生んだ要因は、ロッテの凋落だ。
8月末時点では3位のソフトバンクに4ゲーム差、4位の楽天とは6ゲーム差をつけてCS圏内は当確と思われたが9月に入ると5勝13敗の急ブレーキ。この間、ソフトバンクは10勝10敗、楽天も10勝8敗と胸を張れるほどの数字ではないが、勝手にロッテが混戦の渦に飛び込んできた格好だ。
悩めるロッテを象徴していたのが、24日のソフトバンク戦である。
先発予定の佐々木朗希投手が発熱による体調不良で急遽、先発を回避。やむなく緊急登板した横山陸人投手がソフトバンク打線につかまり初回から5失点、その後の反撃も及ばず1点差で惜敗した。この時点で5連敗。
「横山を先発に選んだ自分が最大の敗因」と吉井理人監督も厳しい表情で試合を振り返るしかなかった。
ついていない時はすべてが悪循環に陥る。この日は佐々木朗以外に沢村拓一、岡大海選手が、前日にも藤岡裕大、山口航輝、さらに前々日にも小島和哉選手が「特例2023」で登録を抹消されるなど、チームはまさに“野戦病院”の様相を呈している。中でも、飛び切り痛いのは大黒柱・佐々木朗の度重なる戦列離脱だろう。
勢いをなくしたチームの「起爆剤」となるはずが…
「令和の怪物」の4年目はWBC世界一で幕を開けた。
例年とは違う早めの調整に苦しむジャパンの選手も出たが、4月は3勝0敗の好発進で首位躍進の原動力にもなっている。
異変が襲ったのは5月5日のソフトバンク戦。中指のマメがつぶれて5回無安打12奪三振で緊急降板。160キロの快速球を投げるには強烈なスピン量が必要とされる。中指にかかる負担は怪物の代償だった。
さらに7月に入ると左脇腹を痛めて肉離れの診断で長期離脱。懸命のリハビリでやっと9月に戦列に戻ったら、今度は発熱ダウン、これではチームも上昇機運に乗れない。
吉井監督は、佐々木の復活にふたつの野望を抱いていたはずだ。
一つは勢いをなくしたチームの「起爆剤」にして、混戦のCS争いから再び抜け出す事。もう一つは、その先にある打倒・オリックスの切り札である。
佐々木朗が昨年完全試合を行ったのもオリックス戦。その再現とは行かなくても、本来の投球が出来ればどの球団でも佐々木攻略は至難の業となる。オリックスの絶対エース・山本由伸と投げ合っても勝機は生まれる。「下剋上」のためにも怪物の復活こそが生命線なのである。
その佐々木朗が混戦のCS争いに登板するには再調整が必要になる。仮にペナント最終盤で投げられないとCSでぶっつけ登板も覚悟しなければならない。ここでも指揮官の青写真は再修整を余儀なくされた。
Aクラス入りを狙う3チームにあって、残り試合数はロッテがライバルより2~3試合多い。普通なら目的をもって一戦必勝のケースでは試合数の多い方が有利と思われるが、今季のロッテの場合は大黒柱不在だけにそうとも言えない。
日程面では、目下6連戦の最中だが、1日置いて再び5連戦が待ち構えている。今後ソフトバンクは5連戦、楽天は4連戦が一つだけ。次戦との間隔が空けば空くほどエース級だけの登板も可能になる。
現状を見る限り当該3球団で、すぐに抜け出せるチームは見当たらない。
ロッテなら今月30日から本拠地・ZOZOマリンで戦う5連戦、そのうち4試合は今季相性のいい西武戦(13勝8敗)だけに、ここで貯金を作れるか?
ソフトバンクと楽天は来月2、3日と同7日の直接対決3試合が大きなカギとなりそうだ。それでも決着を見ない場合には同9日の楽天vsロッテの最終戦までもつれ込む可能性まである。
「それにしても、朗希よ!」。ロッテファンならずとも、つぶやきたくなる壮絶Aクラス・デッドヒート。怪物が姿を消した秋は混迷の度を益々深めていく。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)