4年になって急浮上
今年は10月26日に行われるプロ野球のドラフト会議。運命の一日が近づくにつれて、徐々に関連ニュースも増えてきた。
なかでも大学生の投手が“豊作”と言われている今年のドラフト戦線。その多くは下級生の頃から主戦投手として活躍を見せていたケースがほとんどだが、中には最終学年に入って一気に評価を上げてきた選手もいる。
その筆頭とも言えるのが、名城大の岩井俊介だ。
▼ 岩井俊介(名城大)
・投手
・182センチ/90キロ
・右投右打
・京都翔英高
<主な球種と球速帯>
ストレート:147~155キロ
スライダー:123~126キロ
カットボール:132~135キロ
フォーク:130~134キロ
<クイックモーションでの投球タイム>
1.30秒
10球団・28人のスカウトが集結
京都翔英高時代は、同学年の遠藤慎也(現・亜細亜大)が注目を集めており、岩井自身は目立った実績を残していない。
それでも、名城大に進学してからは2年春に3勝をマークしてチームのリーグ優勝に貢献。続く大学選手権では最速147キロを記録するなど素質の片鱗を見せたが、以降はなかなか安定しないシーズンが続いた。
その間に、チームでは同学年の松本凌人が台頭。松本は、2年春の大学選手権で沖縄大の仲地礼亜(現・中日)に投げ勝って完封したほか、昨年は大学日本代表に選ばれている。
そんな中、ようやく岩井が松本と並ぶ存在にまでなってきたのが今年の春だ。
チームは惜しくもリーグ戦の優勝を逃すも、7試合で4勝1敗、51回2/3を投げて防御率1.57を記録。58奪三振という見事な成績を残して、敢闘賞を受賞した。
6月に行われた大学日本代表候補合宿では150キロを超えるストレートを連発。初めての代表入りも果たしている。
ちなみに、この合宿では回転数や回転軸といったデータを計測しているのだが、ストレートの回転数は全投手の中で岩井がNo.1だったという。
続く日米大学野球選手権ではリリーフで2試合の登板に終わったものの、この頃から上位候補として岩井の名前が聞かれるようになった。
こうして迎えた最後のシーズン。岩井の初登板は9月9日の対愛知工業大戦。この試合が行われたパロマ瑞穂球場には、10球団・28人のスカウトが集結した。この日は他の連盟でも多くの強豪チームが試合をしていただけに、岩井の注目度の高さがうかがえる。
スカウト陣が熱い視線を送るなかで、岩井は見事なピッチングを見せる。立ち上がりの初回をわずか10球で三者凡退に抑えると、その後も相手打線を圧倒。4回に二死から死球と安打で初めて得点圏に走者を背負ったが、落ち着いて後続を抑えて無失点でしのいでいる。
7回には、この日初めて先頭打者に二塁打で出塁を許すも、そこからギアを上げて最後は連続三振。走者の生還を許さず、最終的に7回を被安打4、5奪三振で無失点の好投。見事に勝利投手となった。
平均球速はプロの一軍レベルに匹敵
ストレートの最速は152キロ(自己最速は155キロ)。筆者が計測できた47球のストレートのうち、145キロを下回ったのはわずかに3球だけで、平均球速は147.5キロに達している。7回を投げた投手の平均球速としては、プロでも一軍の上位クラスに匹敵するレベルだ。
体つきも下級生の頃に比べ、明らかに大きくなった。それに伴い、体重移動のスピードもアップしている。上半身の力みがなく、楽に腕を振ってこれだけのスピードボールを投げられるというのは大きな長所である。
さらに、打者の手元で鋭く変化するスライダーやカットボールの質も高く、短いイニングであればプロの一軍で十分に通用するだろう。
一方で、気になった点は外角一辺倒の攻めだ。フォームがどうしても右打者のアウトコースに向かって投げているように見え、内角を狙うとボールが抜けそうになっている。もう少しホームベースに対して直線的にステップをして、腕を振って内角に投げられるようになれば、さらにスライダーやカットボールが生きるはずだ。
また、前述したように変化球には速いボールが多い。プロで長いイニングを投げるためには、緩急をつける緩いボールをマスターしたいところだ。
それでも、コンスタントに150キロを超えるストレートを続けることができ、制球力が安定しているため、総合力では今年の大学生のなかでも上位であることは間違いない。
右のパワーピッチャーが欲しい球団にはうってつけの選手であり、早い段階で名前が呼ばれる可能性が高いだろう。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所