白球つれづれ2023・第43回
3年連続V逸のソフトバンクがチーム再建へ、大ナタを振るった。
藤本博史監督の退任に伴う一軍監督には小久保裕紀前二軍監督が就任、23日に行われた発表会見では「再び常勝軍団へチャレンジ」(後藤芳光球団社長兼オーナー代行)とチーム再建を託された。さらに新監督は「強いことも大切だが、身だしなみや、グラウンドでの立ち居振る舞いなどでも美しさが欠けている」と新たなチーム方針に「いかに美しくあるか」まで加えた。
これに先立つ22日には驚きの発表もあった。
かつてのセーブ王・森唯斗、貴重な中継ぎ左腕として黄金期を支えた嘉弥真新也、攻守走三拍子揃った上林誠知、ドラフト1位として共に高い期待を背負った髙橋純平、佐藤直樹ら7選手に戦力外通告を行ったのだ。
「枠の世界なので、彼らを残すと誰かがアウトになる」と永井智宏編成育成本部長は大粛清の背景を説明したが、チームの立て直しと、不成績に終われば、このクラスの選手でもクビが飛ぶよと言うショック療法の側面もあったように思われる。
ちなみに今季年俸が4億6000万円に達していた森を筆頭に7選手の合計推定年俸は約7億円。浮いた資金が新たな補強費の補填に充てられる。日本球界も年々ビジネスライクになっている。
ファンにとっては、ちょっぴりショッキングな発表もライバル球団にとっては捉え方が違ってくる。何せ、ソフトバンクと言えば戦力の“宝の山”だからだ。
今季はFAでソフトバンク入りした近藤健介選手の人的補償で日本ハムへ移籍した田中正義投手が2勝25セーブを記録して守護神の座を勝ち得た。現役ドラフトで阪神に入団した大竹耕太郎投手も12勝2敗の好成績でチームのリーグ優勝に大きく貢献している。これらの例を見るだけでも、今回戦力外通告を受けた7選手は他球団にとって魅力のある戦力として検討の価値はある。近年、トレードや戦力外選手の獲得で実績のあるヤクルトやロッテ、さらに戦力層を厚くしたい西武、日本ハムや中日も獲得に名乗りを挙げる公算は大きい。
ソフトバンクの若手育成が停滞している理由とは
今では「育成上手」の看板をオリックスに奪われた感のあるソフトバンクだが、元来は無名選手を育て上げて黄金期を築き上げて来た。
メジャーのメッツに移籍した千賀滉大投手を筆頭に甲斐拓也、石川柊太、大関友久、周東佑京、牧原大成らの各選手はいずれも育成出身。激しい生存競争を耐え抜いて主力にのし上がっていった。
その一方で、ドラフト上位組の伸び悩みが現在の弱体化を招いたと言う指摘もある。気がつけば、柳田悠岐、中村晃、今宮健太、甲斐拓也ら主力野手はいずれも30代。投手に目を転じても1年間通して先発ローテーションを守ったのは42歳の和田毅ただ一人では、課題もはっきりしている。今こそ若手の育成に本腰を入れないと先が見えて来ない。
昨年のドラフトでは6人の通常指名に加えて、実に14人の育成選手を獲得、今季から他球団に先駆けて初の四軍も創設した。この結果、支配下登録67選手に育成契約が54選手、合計121選手まで所帯は膨れ上がっている。これに対してオリックスは支配下60人に、育成枠が20人で80選手だから、いかに多くの人材を集めているかがわかる。
これだけの大所帯から、かつてのような好素材が誕生すれば「安い投資」となるが、成果が出ないようだと「組織の肥大化」が問題となって来る。
巨人を例にとれば、豊富な資金力で毎年のようにFAやトレードで大物選手を獲得してきたが、その裏で有望な若手が埋もれていく現実があった。一軍の厚い壁にはね返された選手は、這い上がる気力を失い「二軍病」に苦しめられる。これが、三軍、四軍となればなおさらだ。プロである以上、競争の原理は当然だが、過度になるとチームの風通しは悪くなる。
今季は近藤や有原航平にロベルト・オスナ選手らを獲得して「80億円補強」と呼ばれたが、それでも打倒・オリックスは果たせなかった。
さて、戦力外のレッテルを貼られた男達の多くが、現役続行を希望していると言う。巨大戦力に弾き飛ばされた彼らが、新天地でどんな生き様を見せるのか、そちらも興味深く見守っていきたい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)